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東野圭吾『卒業』書評|若さのきらめきと未完成な推理が胸に残る青春ミステリー


※上記は紙媒体の書籍です。

大学生という「宙ぶらりんの時間」を切り取った物語

東野圭吾『卒業』は、のちに名シリーズへと発展する加賀恭一郎シリーズの第一作です。

舞台は就職を目前に控えた大学四年生たちの世界。

学生でもなく、社会人でもない。

その不安定で、しかしどこか無敵にも感じられる時間帯が、この物語の空気感を支配しています。

主人公の一人である加賀恭一郎も、まだ刑事ではありません。

彼はごく普通の大学生として、仲間たちと共に卒業を迎えようとしています。

だからこそ、本作では後年のような完成された名探偵像はなく、迷いや感情が色濃く描かれているのが印象的です。

物語の中心にある「死」──自殺か、他殺か

物語は、仲間の一人が死亡するという衝撃的な出来事から動き始めます。

しかし読後に残る印象は、いわゆる派手な殺人事件ではありません。

読者は自然と「これは自殺ではないだろう」と思いながらページをめくるのに、最後まで“自殺か他殺か”“動機は何なのか”という問いで引っ張られ続けます。

この静かな緊張感こそが、『卒業』の最大の魅力でしょう。

血なまぐさい描写はほとんどなく、代わりに描かれるのは友情のひずみや、言葉にできなかった感情、若さゆえの不器用さです。

茶道と雪月花ゲーム──理解しにくいからこそ残る余韻

本作で賛否が分かれるのが、茶道の作法や「雪月花ゲーム」を用いたトリックです。

正直に言えば、初読では動きが頭に浮かびにくく、「よく分からない」と感じる読者も多いでしょう。口コミでも同様の声が多く見られます。

それでも不思議なことに、読み終えたあとに「分からなかったからつまらない」とはならない。

むしろ、少し引っかかる感覚が物語全体の余韻として残ります。

この“分かりにくさ”は、後年の洗練された東野作品にはあまり見られない、初期作品ならではの味だと感じました。

未完成な加賀恭一郎の魅力

『卒業』の加賀恭一郎は、まだ鋭さよりも誠実さが前に出ています。

感情を完全に切り離せず、仲間だからこそ踏み込みにくい葛藤も抱えている。

その姿がとても人間的で、だからこそ読者は彼に共感してしまうのです。

事件を解決する過程で見せる冷静さの芽は、すでに確かに存在しています。

その芽が、これからどのように成長していくのか──シリーズを追いかけたくなる理由が、本作にはしっかりと詰まっています。

時代を超えて読める青春ミステリー

スマートフォンもPCもない時代背景ですが、不思議と古さは感じません。

それは、人間関係のもつれや、未来への不安、友情と距離感といったテーマが、今も変わらず私たちの中にあるからでしょう。

派手な展開や驚天動地のトリックを求める人には物足りないかもしれません。

しかし、静かで爽やか、そして少し切ない青春ミステリーを味わいたい人には、これ以上ない一冊です。


※上記は紙媒体の書籍です。

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