
「犯人のいない殺人」とは、いったいどういうことなのか。
タイトルだけでも気になる東野圭吾さんの『犯人のいない殺人の夜』は、表題作を含む7編を収録したミステリー短編集です。
殺人事件。
不可解な死。
家族の秘密。
消えない疑念。
一編ごとに登場人物も事件も異なりますが、読み進めていくと共通して見えてくるものがあります。
それは、
事件の裏側にある人間の弱さや欲望です。
「誰がやったのか」という謎だけではありません。
なぜ、その行動を選んだのか。
ほんの少し何かが違っていたら、事件は起きなかったのではないか。
そんなことまで考えさせられる作品が多く収録されています。
私自身、読み終わったあとに「謎が解けてすっきりした」というよりも、少し心に引っかかるものが残る短編集でした。
この記事では、犯人・トリック・結末には触れず、『犯人のいない殺人の夜』に収録されている全7編のあらすじと読みどころ、作品全体の魅力を紹介します。
『犯人のいない殺人の夜』とは?
『犯人のいない殺人の夜』は、東野圭吾さんによる全7編のミステリー短編集です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 犯人のいない殺人の夜 |
| 著者 | 東野圭吾 |
| 出版社 | 光文社 |
| 単行本刊行 | 1990年7月 |
| 新装版 | 2020年2月 |
| 新装版ページ数 | 371ページ |
| 収録作品 | 全7編 |
| ジャンル | ミステリー短編集 |
1990年に単行本が刊行され、2020年には光文社文庫から新装版が発売されています。
比較的初期の東野圭吾作品を、短編でまとめて読める一冊です。
『犯人のいない殺人の夜』を一言で表すと?
一言で表すなら、
事件の意外性だけでなく、「人はなぜ一線を越えてしまうのか」まで描いた短編集
です。
もちろんミステリーなので、
「何が起きたのか」
「誰が関わっているのか」
という謎があります。
しかし、真相へ近づいたあとに残るのは、謎が解けた爽快感だけではありません。
嫉妬。
保身。
恐怖。
執着。
人に知られたくない秘密。
そうした感情が重なり、思いもよらない結果へつながっていきます。
だからこそ、この本は犯人やトリックを知らない状態で読むことをおすすめします。
『犯人のいない殺人の夜』全7編のあらすじ【ネタバレなし】
本書には、次の7作品が収録されています。
| 作品 | ネタバレなしの内容 |
|---|---|
| 小さな故意の物語 | 親友が学校の屋上から転落死。自殺とは思えない主人公が真相を探り始める |
| 闇の中の二人 | 生後間もない子どもの死をきっかけに、家族の中に隠されていたものが見えてくる |
| 踊り子 | 少年が偶然目にした少女への憧れから始まる、少し雰囲気の異なる一編 |
| エンドレス・ナイト | 夫の死をきっかけに、妻がこれまで知らなかった夫の一面へ近づいていく |
| 白い凶器 | 職場で続く不可解な出来事を追ううち、人間関係の裏側が浮かび上がる |
| さよならコーチ | 女性選手が死の直前に残したビデオメッセージ。その意味をめぐって物語が動く |
| 犯人のいない殺人の夜 | 岸田家で起きた殺人。しかし、死体も犯人も見当たらない |
ここから、それぞれの作品についてもう少し紹介します。
犯人・トリック・真相には触れません。
小さな故意の物語
学校の屋上から親友が転落して亡くなります。
しかし主人公には、自殺とは思えません。
そこで、当時の状況や周囲の人間関係を調べ始めます。
大掛かりなトリックというより、
ほんの小さな感情や行動が、思いもよらない結果につながる怖さ
が残る一編です。
タイトルにある「小さな故意」とは何なのか。
読み終わったあとに、その言葉の意味を改めて考えたくなります。
闇の中の二人
生後3か月の子どもの死をきっかけに、家族の中へ物語が入っていきます。
家庭という外からは見えにくい場所に、何が隠されていたのか。
単純な犯人当てだけではなく、
家族だからこそ見えなくなるもの
が描かれる作品です。
重さのある一編なので、明るい読後感を求める人には少し苦しく感じるかもしれません。
踊り子
ほかの収録作とは少し雰囲気の違う一編です。
少年が偶然目にした「踊り子」に惹かれたことから、物語が始まります。
事件そのものだけではなく、
憧れ。
思い込み。
人をどう見ているのか。
といった部分も印象に残ります。
重い作品が並ぶ中で少し空気が変わりますが、単純に明るい話で終わるわけではありません。
エンドレス・ナイト
夫の死をきっかけに、妻がその背景を知ろうとする物語です。
一緒に暮らしていた相手のことを、本当にすべて知っていたのか。
そんな疑問が少しずつ広がっていきます。
謎を追う面白さとともに、
夫婦であっても、知らない部分はある
という距離感が独特の余韻を残します。
白い凶器
職場を舞台にしたミステリーです。
不可解な出来事が続き、その背景に何があるのかが焦点になります。
職場という日常的な場所が舞台だからこそ、ほかの作品とは違った身近な怖さがあります。
人間関係や過去がどのようにつながっていくのか。
少しずつ情報が積み重なっていく展開が読みどころです。
さよならコーチ
アーチェリー部の女性選手・直美が亡くなり、死の直前にビデオメッセージを残しています。
そこに残された、
「さよなら、コーチ」
という言葉。
何があったのか。
なぜ、そのメッセージを残したのか。
短い物語の中で、少しずつ見え方が変わっていきます。
内容を知らずに読んでほしい作品なので、ここではこれ以上触れません。
犯人のいない殺人の夜
表題作です。
岸田家で殺人が起きます。
ところが、
死体もなければ、犯人もいない。
「殺人が起きたのに、犯人がいないとはどういうことなのか」
というタイトルそのものが大きな謎になっています。
表題作は、収録作の中でも特に印象に残った一編でした。
ただし、本作は途中から先の情報を知らない状態で読む方が面白い作品です。
「犯人のいない殺人の夜」というタイトルに、どんな意味があるのか。
そこを考えながら読んでみてください。
犯人探しだけでは終わらないところが面白い
ここからは作品全体の特徴に少し踏み込みます。
ただし、犯人・真相・結末には触れません。
この短編集を読んで感じたのは、
「誰がやったのか」だけでは終わらない作品が多い
ということです。
ミステリーでは、犯人が分かったところで大きな謎は解決します。
しかし本書の場合、
「なぜ、そんな行動をしたのか」
「そこまで追い込まれた理由は何だったのか」
という部分が残ります。
そのため、事件そのものが解決しても、気持ちまできれいに片づくわけではありません。
読み終わったあとに、少し引っかかる。
その後味も、『犯人のいない殺人の夜』の魅力だと思います。
東野圭吾の初期作品を短編で楽しめる
本書の単行本が刊行されたのは1990年です。
東野圭吾さんの比較的初期の作品をまとめて読めます。
一編ごとの物語はコンパクトで、登場人物も必要以上に多くありません。
事件へ入るまでの展開も比較的早いため、
「長編を読む時間はないけれど、ミステリーを読みたい」
というときにも手に取りやすいです。
短いからといって、謎が単純というわけでもありません。
限られたページの中で情報が提示され、最後まで読むことで見え方が変わる作品もあります。
現在の東野圭吾作品とはまた違う、初期作品の雰囲気を短編で味わえる一冊です。
今読むと時代を感じる部分はある
1990年前後に発表された作品を含むため、今読むと時代を感じる部分もあります。
特に、男女関係や人物の価値観については、
「今とは少し違う」
と感じるところがあるかもしれません。
女性キャラクターの描かれ方など、現在の感覚で読むと違和感を覚える読者もいるでしょう。
ただ、それだけで作品全体が読みにくくなるとは限りません。
むしろ、
当時の東野圭吾作品では、どのような人物や人間関係が描かれていたのか
という視点で読むと興味深い部分でもあります。
近年の作品を多く読んできた人なら、作風の違いを感じられるでしょう。
5編はドラマ『東野圭吾ミステリーズ』でも映像化
本書の収録作のうち、
- さよならコーチ
- 犯人のいない殺人の夜
- エンドレス・ナイト
- 白い凶器
- 小さな故意の物語
の5編は、2012年放送のフジテレビ系ドラマ『東野圭吾ミステリーズ』で映像化されています。
小説を読んだあとにドラマを見ると、
「この人物を映像ではどう描いたのか」
「短編をドラマ1話にすると、どこが変わるのか」
といった違いを楽しめます。
反対に、以前ドラマを見たことがある人が原作を読むのも面白いでしょう。
ただし、まだ原作もドラマも知らない場合は、ミステリーという性質上、原作から読む方が真相を知らない状態で楽しめます。
『犯人のいない殺人の夜』がおすすめな人
本書は、次のような人に向いています。
- 東野圭吾の短編を読んでみたい人
- 長編を読む時間はないけれど、短編でしっかりミステリーを楽しみたい人
- 犯人当てだけではなく、人間心理も描かれる作品が好きな人
- 少し後味の残るミステリーが好きな人
- 初期の東野圭吾作品を読んでみたい人
- 一編ずつ区切って読みたい人
すべて独立した短編なので、まとまった読書時間がなくても読みやすいところも魅力です。
一方、
「事件が解決したら、すっきり終わってほしい」
「明るい読後感の作品を読みたい」
という人には、少し重く感じる作品もあるかもしれません。
人の弱さや暗い部分まで含めて楽しめる人に向いている短編集です。
東野圭吾の別の短編集を読むなら『探偵倶楽部』『怪しい人びと』
『犯人のいない殺人の夜』を読んで、
「東野圭吾の短編をもっと読んでみたい」
と思ったなら、『探偵倶楽部』と『怪しい人びと』も候補になります。
『探偵倶楽部』
『探偵倶楽部』は、謎めいた男女の探偵が依頼を受けて事件を調査する短編集です。
『犯人のいない殺人の夜』と同じく、事件そのものだけではなく、人間関係の裏側も描かれます。
短編で推理を楽しみたい人なら読み比べやすい一冊です。

『怪しい人びと』
『怪しい人びと』も7編を収録した短編集です。
人間の弱さやずるさ、どこか奇妙な人間関係をさまざまな角度から描いています。
『犯人のいない殺人の夜』を読んで、
「事件だけではなく、人そのものが気になる短編をもっと読みたい」
と思った人はこちらも候補になります。

まとめ|真相が分かったあとに残るものまで楽しむ短編集
『犯人のいない殺人の夜』は、表題作を含む7編を収録した東野圭吾さんのミステリー短編集です。
一つひとつの物語は比較的コンパクトで、テンポよく読み進められます。
しかし、読後感まで軽いわけではありません。
嫉妬。
保身。
恐怖。
執着。
人に知られたくない秘密。
ほんの小さな感情が重なり、人が思わぬところで一線を越えてしまう。
そこに、この短編集の怖さがあります。
私自身、読み終わって、
「謎が解けてすっきりした」
というより、
事件が終わったあとにも、少し心に引っかかるものが残る
という印象でした。
特に表題作は、タイトルの意味を考えながら読んでほしい一編です。
犯人や結末を知らない状態だからこそ味わえる面白さがあります。
長編を読む時間はないけれど、短い物語の中でミステリーと人間心理の両方を楽しみたい。
そんな人にも手に取りやすい一冊です。


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