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東野圭吾『学生街の殺人』――若さの澱と理性が交錯する、初期長編の異色作


※上記は紙媒体の書籍です。

学生街の殺人は、東野圭吾の初期長編作品の中でも、特に“重さ”と“青さ”が同居した一冊です。

華やかなトリックや軽快なテンポで読者を引っ張る近年の東野作品とは異なり、本作はじわじわと精神を侵食するような読後感を残します。

学生街という未完成な場所で起こる連続殺人は、単なるミステリーにとどまらず、若者が抱える焦燥や自己嫌悪、そして成長の痛みを克明に描き出しています。

学生街を覆う閉塞感と連続殺人の謎

物語の舞台は、大学を中心に形成されたいわゆる「学生街」。

主人公・津村光平は、夢も目標も定まらないまま、どこか落ちぶれた学生街で日々をやり過ごしています。

彼が働くビリヤード場は、当時流行していた娯楽の象徴であると同時に、若者たちの行き場のなさを体現する場所でもあります。

そんな街で起こる連続殺人事件。

しかも事件には密室トリックが絡み、読者は否応なく“謎解き”へと引きずり込まれます。

前半はやや説明的で、会話も回りくどく感じるかもしれませんが、それは意図的とも言える構成です。

街の空気、人間関係の澱を丁寧に積み重ねることで、後半の展開に強烈な説得力を持たせています。

津村光平という未完成な主人公の成長譚

本作を単なるミステリー以上のものにしているのが、津村光平の存在です。

彼は決して有能な探偵役ではありません。

むしろ、自分の弱さや卑屈さを自覚しながらも、そこから抜け出せない“等身大の若者”です。

事件の真相に近づくにつれ、光平は他者の業だけでなく、自身の内面とも向き合わざるを得なくなります。

口コミにもあるように、本作は「謎解き」と同時に「成長譚」として読むことで、より深い味わいが生まれます。

学生街という閉じた世界から、精神的に一歩踏み出すまでの過程は、不器用で痛々しい。

しかしだからこそリアルで、胸に残るのです。

初期東野作品ならではの重苦しさと先見性

初期の東野圭吾作品らしく、リーダビリティ(読みやすさ、理解しやすさ)は決して軽快ではありません。

中弛みを感じる箇所もあり、好みは分かれるでしょう。

ただ、その重苦しさの中にこそ、本作の魅力があります。

理系作家らしい論理性と、人間の感情を冷徹に見つめる視線が交差し、読者に不穏な緊張感を与え続けます。

特筆すべきは、1990年という時代にAIを巡るテーマがさりげなく織り込まれている点です。

現代の読者が読んでも違和感が少なく、「東野圭吾の先見性」に驚かされる瞬間でもあります。

まとめ:一気読みでこそ真価を発揮する一冊

『学生街の殺人』は、気軽に楽しむエンタメミステリーではありません。

しかし、人間の業、若者の未熟さ、そして理性の危うさを真正面から描いた作品として、強い読後の余韻を残します。

細切れに読むよりも、ぜひ一気読みで。

そのとき初めて、この物語が持つ重さと深さが、確かな手応えとして伝わってくるはずです。


※上記は紙媒体の書籍です。

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