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【書評】東野圭吾『怪しい人々』|人間の弱さと怖さが静かに滲む短編集


※上記は紙媒体の書籍です。

東野圭吾『怪しい人々』は、派手なトリックや大事件よりも、「人の心の歪み」や「日常に潜む狂気」をじわりと描き出す短編集です。

長編のような圧倒的な没入感はないものの、その分、一編一編が鋭く、読後に妙な後味を残します。

読み終えたあと、登場人物の行動を思い返しながら「自分だったらどうしただろう」と考えさせられる、そんな一冊です。

短編だからこそ浮かび上がる“怪しさ”

本作に収録されている物語はどれも比較的短く、文体もあっさりしています。

しかし、その淡白さが逆に、人間の怖さを際立たせています。

登場人物たちは一見、ごく普通の人々です。

善良そうに見えたり、気弱だったり、仕事熱心だったりする。

しかし、ほんの小さな選択や感情のズレから、取り返しのつかない方向へ進んでいく。

その過程がとてもリアルで、だからこそ「怪しい」のです。

印象に残る各作品の見どころ

「寝ていた女」は、本作の中でも特に印象的な一編でしょう。

清純で奥手に見える葉山弘江。

しかしその裏で行われていた行為を知った瞬間、読者の見る目は一気に反転します。

なぜ主人公は彼女を疑わなかったのか、なぜ見逃してしまったのか。

読み進めるほどに、「お人好し」であることの危うさを突きつけられます。

「もう一度コールしてくれ」は、記憶というものの曖昧さをテーマにした物語です。

主人公の中で都合よく書き換えられていた過去が、ある再会によって崩れ落ちていく展開は静かですが非常に残酷です。

自分自身の記憶も、実は同じように歪められているのではないか、と不安にさせられます。

「死んだら働けない」は、仕事に人生を捧げた男の物語です。

因果応報という言葉が頭をよぎりつつも、「そもそも会社の体質が問題なのではないか」と考えさせられる内容で、読後にはやるせなさが残ります。

真面目さが必ずしも報われない現実が、淡々と描かれています。

「甘いはずなのに」は、悲しさと救いが同時に押し寄せる物語です。

取り返しのつかない誤解と罪に気づいたときの衝撃、そして最後に残るかすかな希望。

この短さの中で、ここまで感情を揺さぶられるのはさすが東野圭吾だと感じます。

「灯台にて」は、読んでいて怖さと爽快感が同居する異色作です。

長年続いた歪んだ主従関係が、思いもよらぬ形で崩壊するラストは強烈。

人によっては「いい気味だ」と感じてしまうかもしれませんが、その感情すら見透かされているようで、後味は決して軽くありません。

派手さはないが、確実に心に残る一冊

正直に言えば、東野圭吾の長編が好きな人には、物足りなさを感じる部分もあるでしょう。

実際、物語はどれも淡々と終わります。

しかし、その淡々さの中にこそ、本作の価値があります。

日常のすぐ隣にある狂気、誰の心にも潜んでいる弱さやずるさ。

それらが静かに、しかし確実に描かれているのです。

『怪しい人々』は、読みやすく、それでいて読後にじわじわ効いてくる短編集です。

重厚な東野圭吾に疲れたとき、あるいは人間という存在を少し冷静に見つめ直したいときに、ぜひ手に取ってほしい一冊です。


※上記は紙媒体の書籍です。

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