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東野圭吾『鳥人計画』書評|勝利の裏側に潜む狂気と、人が空を目指す理由


※上記は紙媒体の書籍です。

スポーツ小説でありながら、本格ミステリーとしても高い完成度を誇る一冊が、「鳥人計画」です。

札幌・長野オリンピックで一躍注目を浴びたスキージャンプ界を舞台に、「勝つために人はどこまで非情になれるのか」という問いを、冷酷なほど論理的に突きつけてきます。

作者はもちろん 東野圭吾

若き日の東野作品らしい、重たく、影を引きずるような読後感が強く残る一作です。

スキージャンプ界に起きた“鳥人”の死

物語は、日本ジャンプ界の絶対的エース・楡井が、ある日突然毒殺されるところから始まります。

彼は「今後何十年も現れない」とまで称された天才ジャンパー。

まさに“鳥人”と呼ぶにふさわしい存在でした。

しかしこの物語の特徴は、犯人探しそのものに重点が置かれていない点にあります。

序盤で、かつて楡井と同じ道を歩み、天才に届かなかった男・峰岸の存在が強く示唆され、「犯人は彼なのだろう」と多くの読者が察するはずです。

それでもページをめくる手が止まらないのは、

「なぜ殺したのか」
「どうやって殺したのか」

この二点が、簡単には見えてこないからです。

天才と凡才、そして嫉妬という名の毒

峰岸は努力の人です。

天才・楡井に憧れ、追いかけ、そして決して追いつけなかった男。

やがて彼は選手の道を諦め、指導者となりますが、そこにもまた楡井の影が付きまといます。

ここで描かれる感情が、とにかく生々しい。

尊敬と嫉妬、憧れと憎悪が、きれいに分離されることなく、どろりと混ざり合っているのです。

「努力すれば報われる」

スポーツがよく語るこの言葉を、東野圭吾は容赦なく否定してきます。

努力しても、どうしても越えられない才能がある。

その現実が、峰岸の心を静かに、しかし確実に歪ませていきます。

科学でスポーツを支配するという狂気

物語後半の核となるのが、杉江泰介監督の存在です。

彼が推し進める「サイバード・システム」は、理想とする楡井の動きを完全に再現させるため、ズレが生じると不快な音で矯正するという、常軌を逸したトレーニング方法。

ここで浮かび上がるテーマは、「スポーツを科学する」と「科学でスポーツをする」の境界線です。

効率、再現性、勝利。

それらを突き詰めた結果、人間の感覚や意志はどこまで切り捨てていいのか。

杉江監督の執念は称賛に値する一方で、明確な狂気も孕んでいます。

読んでいて背筋が冷えるのは、この発想が決してフィクションだけの話ではないと感じさせる点でしょう。

すべてを覆す、静かな大どんでん返し

トリカブトの毒を用意したのは峰岸。

この事実は比較的早く明かされます。

しかし、物語はそこで終わりません。

終盤、明かされる真実は、

「犯人だと思われていた峰岸ですら知らなかった真相」

それまで積み重ねられてきた違和感が、一気に一本の線で繋がる瞬間は、まさに東野ミステリーの醍醐味です。

派手なトリックではありませんが、人の心の盲点を突く結末には、「そういうことだったのか……」と深いため息が漏れます。

重く、苦く、それでも忘れられない一冊

『鳥人計画』は決して爽快な読後感の作品ではありません。

勝負の世界の残酷さ、指導者のエゴ、才能に翻弄される人間の弱さが、これでもかと描かれます。

それでも読み終えた後、しばらく頭から離れない。

それこそが、この作品の力です。

スキージャンプを知らなくても楽しめますし、知っていればなお刺さる。

スポーツ小説、ミステリー、人間ドラマ、そのすべてを高い次元で融合させた、東野圭吾初期の名作だと断言できます。


※上記は紙媒体の書籍です。

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