※上記は紙媒体の書籍です。
東野圭吾『同級生』は、高校を舞台にしたミステリーでありながら、単なる学園推理小説では終わらない重さを持った作品です。
若さゆえの未熟さ、どうしようもない衝動、そして大人たちの身勝手さが絡み合い、読後に強い違和感と苦味を残します。
デビュー作『放課後』以来の高校ミステリーという点でも、東野圭吾の原点を感じさせる一冊です。
交通事故死から始まる疑念
物語は、高校3年生の宮前由希子が交通事故で亡くなるところから始まります。
一見、不幸な事故として処理される出来事。
しかし、彼女が同級生・西原荘一の子を妊娠していた事実が明らかになり、荘一は次第に「本当に事故だったのか」という疑念を抱き始めます。
動揺と罪悪感、そして由希子を失った喪失感。
その中で荘一が真相を探ろうとする姿は、決して英雄的ではありません。
むしろ未熟で身勝手で、読者によっては共感しづらい部分も多いでしょう。
しかし、その不完全さこそが、この物語のリアリティでもあります。
女教師殺害事件が浮かび上がらせる真実
由希子の死を追う中で起こる、もう一つの事件。
事故当時、現場に居合わせた女教師・御崎先生が、学校の教室で絞殺されてしまいます。
この第二の事件によって、物語は一気にミステリー色を強めていきます。
二つの事件は無関係に見えながら、少しずつ結びついていく。
トリックの構造は決して派手ではありませんが、動機の積み重ねと人間関係の描写が巧みで、納得感のある真相へと導かれます。
御崎先生の死の真実については、トリック・動機ともに完成度が高く、「なるほど」と唸らされる展開でした。
高校生の視点で描かれる違和感と大人の影
本作の特徴的な点は、主人公が高校生でありながら、思考や行動がどこか大人びているところです。
冷静に推理を進め、状況を俯瞰する荘一の姿に、「高校生にしては達観しすぎている」と感じる読者もいるかもしれません。
しかしそれは、彼が置かれた状況の過酷さゆえでもあります。
望まぬ形で大人の世界に引きずり込まれ、責任を背負わされてしまった少年。
その背景には、親同士の関係や、同級生・春美との微妙な距離感など、複雑な人間関係が絡んできます。
これらが伏線として効いてくる点も見逃せません。
教師への不信と東野圭吾の問題意識
あとがきに記されている教師への反感は、物語全体にも色濃く反映されています。
生徒を守る立場であるはずの大人たちが、保身や感情で行動し、結果的に悲劇を招いてしまう。
その描写は非常に辛辣で、読んでいて胸が苦しくなる場面も少なくありません。
由希子の死に関して「やや弱い」と感じる部分は確かにありますが、それでも本作が描こうとしたのは、完全な正義や救いではなく、人間の歪みそのものだったのではないでしょうか。
だからこそ、読後にすっきりしない感情が残るのだと思います。
古さの中にある、色褪せない重さ
刊行から時間が経っている作品であるため、雰囲気や価値観に時代を感じる部分はあります。
しかし、人の感情の醜さや弱さ、そして取り返しのつかない選択がもたらす結果は、今読んでも十分に重く、心に刺さります。
『同級生』は、爽快感のあるミステリーを求める人には向かないかもしれません。
それでも、東野圭吾の初期作品に触れたい人、人間の業を描いた物語を読みたい人にとっては、忘れがたい一冊になるはずです。
※上記は紙媒体の書籍です。


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