
莫大な遺産を残して亡くなった資産家。
その遺言状を公開するため、一族が旅館「回廊亭」に集められます。
ところが回廊亭では、半年前にも不可解な心中事件と火災が起きていました。
そして一族の中に、相続とは直接関係のない一人の老婆がいます。
彼女の目的は遺産ではありません。
半年前の事件の真相を突き止め、真犯人へ復讐すること。
東野圭吾さんの『回廊亭殺人事件』は、遺産相続をめぐる一族の思惑と、過去の事件への復讐が重なっていく長編ミステリーです。
誰が遺産を手にするのか。
半年前に何が起きたのか。
そして、真犯人は誰なのか。
読み進めるほど、誰の言葉を信じればよいのか分からなくなっていきます。
私が読み終えたあとに強く残ったのは、事件が解決した爽快感よりも、どうしようもない切なさでした。
この記事では、前半で『回廊亭殺人事件』のあらすじや読みどころをネタバレなしで紹介します。
後半では作品について少し踏み込みますが、犯人名、犯人を特定できる情報、具体的なトリック、事件の真相、結末には触れません。
- 東野圭吾『回廊亭殺人事件』とは?
- 『回廊亭の殺人』と『回廊亭殺人事件』は同じ作品?
- 『回廊亭殺人事件』のあらすじ【ネタバレなし】
- 『回廊亭殺人事件』は面白い?率直な感想
- 「犯人探し」だけでなく復讐の行方が気になる
- 遺産相続が絡むため、誰もが怪しく見えてくる
- タイトルは「回廊亭」でも、印象に残るのは人間関係
- 登場人物が多くても途中から読みやすくなる
- 1991年の作品だけれど今読んでも楽しめる?
- 『回廊亭殺人事件』がおすすめな人・合わないかもしれない人
- どんでん返し系の初期作品なら『仮面山荘殺人事件』も
- 2011年に常盤貴子主演でドラマ化
- ここからは作品の内容に少し踏み込みます
- 【軽いネタバレあり】復讐する側が真相を追うことの危うさ
- 【軽いネタバレあり】「事実」と「そう思い込んだこと」は同じではない
- 【軽いネタバレあり】真相が分かっても爽快ではない
- 真相を知ってから序盤を読み返したくなる
- 過去の事件を追う作品なら『11文字の殺人』も
- まとめ|『回廊亭殺人事件』は真相より切なさが残るミステリー
東野圭吾『回廊亭殺人事件』とは?
『回廊亭殺人事件』は、東野圭吾さんによる長編推理小説です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 回廊亭殺人事件 |
| 著者 | 東野圭吾 |
| 出版社 | 光文社 |
| 初出 | 1991年7月『回廊亭の殺人』 |
| 光文社文庫 | 1994年11月『回廊亭殺人事件』に改題 |
| 新装版発売日 | 2020年10月8日 |
| 新装版ページ数 | 336ページ |
| ジャンル | 長編ミステリー |
もともとは1991年に『回廊亭の殺人』というタイトルで刊行されました。
その後、1994年の文庫化に際して『回廊亭殺人事件』へ改題されています。
現在は2020年に刊行された新装版もあります。
『回廊亭の殺人』と『回廊亭殺人事件』は同じ作品?
検索していると、
「回廊亭の殺人」
「回廊亭殺人事件」
という2つのタイトルが出てくるため、別作品なのか迷うかもしれません。
結論からいうと、同じ作品です。
1991年にカッパ・ノベルスから刊行されたときのタイトルが『回廊亭の殺人』。
1994年の文庫化に際して、『回廊亭殺人事件』へ改題されました。
内容の異なる続編ではないので、現在本を探す場合は『回廊亭殺人事件』を選べば問題ありません。
『回廊亭殺人事件』のあらすじ【ネタバレなし】
一代で莫大な財産を築いた実業家・一ケ原高顕が亡くなります。
高顕には妻も子どももいません。
そこで、高顕が残した遺言状を一族の前で公開することになります。
場所に選ばれたのは、一ケ原家が所有する旅館「回廊亭」。
しかし、回廊亭はいわくつきの場所でした。
半年前、ここでは心中事件と火災が起きています。
そして今回の集まりには、一ケ原家の一族ではない「菊代」という老婆も招かれていました。
菊代が回廊亭を訪れた本当の目的は、遺産ではありません。
半年前の事件の真相を明らかにすること。
そして、真犯人へ復讐することです。
ところが遺言状が公開される前夜、回廊亭で新たな殺人事件が起こります。
半年前の事件。
莫大な遺産。
そして新たな殺人。
別々に見える出来事が、少しずつつながっていきます。
『回廊亭殺人事件』は面白い?率直な感想
私は、犯人を当てることだけを目的に読むより、登場人物同士の思惑がどう絡んでいるのかを考えながら読む方がおもしろい作品だと感じました。
遺産をめぐって集まった一族。
半年前の事件。
復讐を目的としている菊代。
それぞれに事情があります。
「この人が怪しい」と思っても、別の情報が出てくる。
すると、
「やはり違うのでは?」
と考え直すことになります。
特に終盤は、それまで持っていた人物への印象が揺れていきます。
ページが残り少なくなっても、まだすべてが片付いたようには見えない。
そこから話が動いていくところは、本作でおもしろかった部分です。
一方、登場人物が多いため、序盤は少し人物関係を把握しにくく感じるかもしれません。
最初だけ、一ケ原家との関係を意識しながら読むと入りやすくなります。
「犯人探し」だけでなく復讐の行方が気になる
本作で特徴的なのは、事件を調べる人物が単純に真相を知りたいだけではないことです。
菊代には、
真犯人を見つけて復讐する
という明確な目的があります。
そのため読者が気になるのも、
「犯人は誰なのか」
だけではありません。
犯人を見つけたら、菊代は本当に復讐するのか。
その復讐は成功するのか。
真相を知ったあと、何が起きるのか。
こうした疑問が物語を引っ張っていきます。
冷静な探偵が事件を解決するタイプのミステリーとは、少し緊張感が違います。
真相へ近づくことが、そのまま危険へ近づくことにもなる。
そこがおもしろいところです。
遺産相続が絡むため、誰もが怪しく見えてくる
一ケ原高顕が残したのは莫大な財産です。
誰が何を相続するのか。
遺言状が公開されるまでは分かりません。
そうなると、集まった一族の言動も気になってきます。
何気ない言葉でも、
「この人は遺産を狙っているのでは?」
と思えてしまいます。
しかも考えなければならないのは、現在の殺人事件だけではありません。
半年前の心中事件も残っています。
現在の事件。
過去の事件。
遺産相続。
複数の問題が重なっているため、簡単に一人へ疑いを絞れません。
誰に動機があってもおかしくないように見える状態
が続くところも、本作の読みどころです。
タイトルは「回廊亭」でも、印象に残るのは人間関係
タイトルに「回廊亭」とあるため、
「館そのものを利用した大掛かりなトリックがあるのでは?」
と期待する人もいるかもしれません。
回廊亭という舞台には独特の雰囲気があります。
ただ、私には建物そのものよりも、そこで絡み合う人間関係の方が強く印象に残りました。
遺産が欲しい人。
過去の事件について何かを知っていそうな人。
誰かを疑っている人。
復讐のために真相を追う人。
一つの場所へ、さまざまな思惑を持った人物が集まっています。
そのため、
「館の仕掛けを楽しむミステリー」
というより、
限られた人物の中で、誰を信じればよいのかを考えるミステリー
と考えた方が、本作の雰囲気には合っています。
登場人物が多くても途中から読みやすくなる
本作で少し気になるのは、序盤に登場人物がまとめて出てくるところです。
一ケ原家の親族。
弁護士。
旅館の関係者。
菊代。
最初は、
「この人は高顕とどういう関係だったかな」
となるかもしれません。
ただ、物語が進むにつれて、それぞれの立場が見えてきます。
最初だけ少し丁寧に人物関係を確認すれば、途中からは事件そのものへ集中しやすくなります。
登場人物が多い作品が苦手だからといって、そこで読むのをやめるほど複雑ではありません。
1991年の作品だけれど今読んでも楽しめる?
本作が最初に刊行されたのは1991年です。
当然ながら、現在とは生活環境が違います。
スマートフォンもありませんし、情報を簡単に検索できる時代でもありません。
また、ある設定については、現在の感覚で読むと、
「そこまでできるのだろうか」
と感じる人もいると思います。
それでも、物語の中心にあるものはあまり古く感じません。
遺産をめぐる欲。
愛する人を失った悲しみ。
復讐。
思い込み。
人を信じること。
こうした感情は、時代が変わっても大きく変わりません。
現在の東野圭吾作品とは少し違う、初期作品ならではの仕掛けを楽しみたい人にも向いています。
『回廊亭殺人事件』がおすすめな人・合わないかもしれない人
本作は、次のような人に向いています。
- 東野圭吾の初期ミステリーを読みたい人
- 遺産相続をめぐる事件が好きな人
- 復讐をテーマにした作品が好きな人
- 限られた人物の中から真相を考えたい人
- 終盤で人物の印象が変わる作品が好きな人
- 謎解きだけでなく、切ない読後感も楽しみたい人
一方、
- 館の構造を使った複雑なトリックを期待する人
- 登場人物が多い作品が苦手な人
- 明るく爽快な読後感を求める人
には、少し合わない可能性があります。
どんでん返し系の初期作品なら『仮面山荘殺人事件』も
東野圭吾さんの初期ミステリーを続けて読みたいなら、『仮面山荘殺人事件』もあります。
こちらも限られた場所と人物の中で事件が進んでいく作品です。
ただし、『回廊亭殺人事件』が遺産相続や復讐、人間関係を中心に進むのに対して、『仮面山荘殺人事件』では読者が置かれた状況をどう受け取るかが重要になります。
同じ初期の長編でも、かなり違った楽しみ方ができます。

2011年に常盤貴子主演でドラマ化
『回廊亭殺人事件』は、2011年6月24日にフジテレビでテレビドラマ化されています。
「東野圭吾3週連続スペシャル」の第3作で、主演は常盤貴子さんです。
同企画では『11文字の殺人』『ブルータスの心臓』も映像化されました。
ドラマ版では原作から一部設定が変更されています。
そのため、原作を読んだあとに見ると、どこを映像向けに変えたのかを比べる楽しみもあります。
ここからは作品の内容に少し踏み込みます
ここから先は、『回廊亭殺人事件』をすでに読んだ方、または多少内容を知っても構わない方向けです。
犯人名、犯人を特定できる情報、具体的なトリック、事件の真相、結末には触れません。
完全に予備知識なしで読みたい方は、ここまでで本編へ進むことをおすすめします。
【軽いネタバレあり】復讐する側が真相を追うことの危うさ
本作では、真相を追うことと復讐することが切り離されていません。
菊代にとって、犯人を見つけることはゴールではありません。
その先があります。
だからこそ、事件について新しい情報が出るたびに、
「これが本当に真相なのか」
と慎重になります。
間違った人物を犯人だと思えば、復讐する相手まで間違えてしまうからです。
普通の犯人当てなら、推理を間違えても読者がページを戻れば済みます。
しかし物語の中ではそうはいきません。
誰を犯人だと信じるのかが、その後の行動そのものを変えてしまう。
この危うさが、後半の緊張感につながっています。
【軽いネタバレあり】「事実」と「そう思い込んだこと」は同じではない
読み進めると、
「自分は、なぜこの人物をこういう人だと思っていたのだろう」
と考えたくなる場面があります。
ミステリーを読んでいると、読者は書かれている情報から自然に人物像を作ります。
この人は信用できそう。
この人は怪しい。
この人物は、こういう立場なのだろう。
ところが、
作品に実際に書かれていた事実と、読者がそこから想像したことは必ずしも同じではありません。
本作では、このズレが重要です。
具体的な仕掛けを書いてしまうと核心へ近づくため触れませんが、真相を知ったあとで序盤を読み返すと、
「ここでは、そこまで断定されていなかった」
と気づく部分があります。
東野圭吾さんの初期ミステリーらしい、読者の思い込みを利用したおもしろさです。
【軽いネタバレあり】真相が分かっても爽快ではない
終盤では、それまで持っていた人物への印象が大きく変わっていきます。
ミステリーとしては、
「そういうことだったのか」
という驚きがあります。
それでも私は、読み終えてスッキリしたというより、切ない気持ちの方が残りました。
真相が明らかになれば、失ったものが戻ってくる。
そういう話ではありません。
むしろ真実を知ったことで、
「もっと早く違うことに気づいていれば」
「別の人を信じていれば」
と考えたくなります。
答えを知ったからこそ、取り返せなかったものが見えてくる。
そこが『回廊亭殺人事件』の読後感を重くしています。
単純な「犯人を当てて終わり」の作品ではないところが、私には印象に残りました。
真相を知ってから序盤を読み返したくなる
本作は、一度最後まで読んだあとに序盤へ戻りたくなる作品です。
初読では、
「この人物が怪しい」
「この人は信用できそう」
と、自分なりに判断しながら読みます。
しかし真相を知ると、
「自分は何を根拠にそう思っていたのだろう」
と気になります。
書かれていた事実。
登場人物が語ったこと。
読者がそこから補ったこと。
この3つを分けながら読み直すと、一度目とは人物の見え方が変わります。
この「二度目に見え方が変わる」というところも、本作のおもしろさです。
過去の事件を追う作品なら『11文字の殺人』も
初期の東野圭吾作品をもう一冊読むなら、『11文字の殺人』もあります。
『回廊亭殺人事件』では、半年前の心中事件が現在の出来事へ影響します。
『11文字の殺人』でも、現在の殺人事件を調べるうちに過去の出来事へとたどり着いていきます。
どちらも、
過去に何が起きたのかを知ることが、現在の事件を理解する鍵になる
タイプのミステリーです。

まとめ|『回廊亭殺人事件』は真相より切なさが残るミステリー
『回廊亭殺人事件』は、莫大な遺産を残して亡くなった資産家の一族が、旅館「回廊亭」に集まるところから始まります。
半年前の心中事件。
遺産相続。
復讐を目的として真相を追う老婆。
そして新たに起きる殺人。
複数の謎と人間の思惑が重なり、最後まで誰を信じればよいのか考えながら読めます。
ただ、私が読み終えて一番強く残ったのは、トリックそのものではありませんでした。
真相が分かったからこそ見えてくる、
「もっと違う選択ができなかったのか」という切なさ
です。
事件が解決しても、失われたものは戻りません。
だからこそ、読み終わったあとにも物語について考えてしまいます。
東野圭吾さんの初期作品らしい仕掛けを楽しみながら、人間の思い込みや復讐の重さも味わいたい人には、相性のよい一冊です。


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