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綾辻行人『黒猫館の殺人』感想・あらすじ|館シリーズ第6作の大仕掛け【後半ネタバレあり】

綾辻行人『黒猫館の殺人』感想・あらすじ|館シリーズ第6作の大仕掛け【後半ネタバレあり】

自分が何者なのか分からない。

過去の記憶もない。

手元に残されているのは、自分が書いたと思われる一冊の手記だけ。

綾辻行人さんの『黒猫館の殺人』は、そんな奇妙な依頼から始まる「館シリーズ」第6作です。

これまでの館シリーズでは、奇妙な館で起きる事件そのものが物語の中心になる作品も多くありました。

しかし本作は、少し始まり方が違います。

推理作家・鹿谷門実のもとを訪れたのは、記憶を失った老人・鮎田冬馬。

鮎田は鹿谷に、

「自分が何者なのか調べてほしい」

と依頼します。

唯一の手掛かりは、「黒猫館」で起きた出来事が記された手記。

そこから鹿谷と江南孝明は、鮎田の過去と黒猫館の謎を追っていきます。

館で何が起きたのか。

鮎田冬馬とは何者なのか。

そして、黒猫館とはどのような場所なのか。

いくつもの疑問を追っていくうちに、物語は思っていた以上に大きな謎へつながっていきます。

この記事では、前半で『黒猫館の殺人』のあらすじや魅力をネタバレなしで紹介します。

後半では作品の構造について少し踏み込みますが、犯人名、鮎田冬馬に関する核心、黒猫館に隠された秘密、具体的なトリック、結末は明かしません。

これから読む方は前半まで、すでに読み終えた方は後半も参考にしてください。

『黒猫館の殺人』とは?

『黒猫館の殺人』は、綾辻行人さんによる「館シリーズ」の第6作です。

まずは基本情報をまとめます。

項目内容
書名黒猫館の殺人
著者綾辻行人
出版社講談社
初刊1992年4月
新装改訂版発売日2014年1月15日
新装改訂版ページ数464ページ
ジャンル本格ミステリー
シリーズ館シリーズ第6作

物語の入口になるのは、火災で重傷を負い、過去の記憶を失った老人・鮎田冬馬です。

自分が何者なのかさえ、はっきり分かりません。

そこで鮎田は、推理作家・鹿谷門実に調査を依頼します。

手掛かりとなるのは、一冊の手記。

そこには「黒猫館」と呼ばれる館で起きた奇妙な事件について書かれていました。

さらに、その館にはシリーズでおなじみの建築家・中村青司も関係しています。

鹿谷と江南孝明は、鮎田の失われた過去と黒猫館を追い、東京から札幌、そして阿寒へと手掛かりをたどっていきます。

つまり本作は、

「館で起きた事件を解く」

だけではありません。

鮎田冬馬とは何者なのか。

このもう一つの大きな謎が、物語の最初から最後まで続きます。

『黒猫館の殺人』のあらすじ【ネタバレなし】

一人の老人が、推理作家・鹿谷門実のもとへ助けを求めます。

老人の名は鮎田冬馬。

しかし、それが本当に自分の名前なのかも含め、彼には過去の記憶がありません。

火災で重傷を負い、それ以前の記憶を失っていたからです。

そんな鮎田が持っている重要な手掛かりが、一冊の手記でした。

手記を書いたのは、自分自身らしい。

そして、そこには「黒猫館」と呼ばれる館で遭遇した奇怪な事件が記されています。

なぜ自分は黒猫館にいたのか。

そこで何が起きたのか。

なぜ記憶を失ったのか。

鮎田にも答えは分かりません。

依頼を受けた鹿谷門実と江南孝明は、手記を手掛かりに調査を始めます。

そして二人は東京から北へ向かい、札幌、阿寒へと足を延ばしていきます。

一方、読者は鹿谷たちとともに、鮎田の手記に書かれた黒猫館の出来事を知ることになります。

現在の調査。

過去を記した手記。

二つを追いながら、

「黒猫館で本当は何が起きたのか」

という謎へ近づいていく物語です。

『黒猫館の殺人』の感想|面白い3つのポイント

記憶を失った人物の「自分は誰なのか」が大きな謎になる

『黒猫館の殺人』で最初に気になるのは、事件の犯人ではありません。

鮎田冬馬とは何者なのか。

こちらです。

本人に記憶がないため、過去について質問しても答えは返ってきません。

手掛かりになるのは、残された手記。

その文章を頼りに、

「この人はどんな人生を送ってきたのだろう」

と考えることになります。

犯人は誰なのか。

事件はなぜ起きたのか。

普通のミステリーで考える謎に加えて、

依頼人自身の正体も分からない。

この設定が、物語を最後まで引っ張っていきます。

手記と現在の調査が並行して進む構成が面白い

本作では、黒猫館で起きた出来事だけを追うわけではありません。

手記に書かれた過去があります。

そして現在では、鹿谷と江南がその内容をもとに調査を進めます。

過去と現在。

手記と調査。

二つの流れが重なる形で物語が進んでいきます。

手記を読んだ鹿谷たちが何に気づくのか。

その手掛かりを追った先に何があるのか。

手記の中だけでは分からなかったことが、現在の調査によって少しずつ見えてきます。

そのため、

「昔、黒猫館で何が起きたのか」

と、

「今、鹿谷たちは何を見つけるのか」

の両方が気になります。

一冊の中で二つの謎を追っているような感覚があります。

終盤まで「黒猫館の本当の姿」が見えてこない

館シリーズでは、建物そのものが重要な作品が多くあります。

『黒猫館の殺人』も同じです。

ただし、本作は最初から館のすべてが見えているわけではありません。

鹿谷たちは手記と鮎田の記憶を頼りに、黒猫館へ近づいていきます。

そのため読者も、

「黒猫館とは、どんな場所なのだろう」

と考えながら読み進めることになります。

講談社公式では、本作について「シリーズ屈指の大仕掛け」と紹介されています。

しかし、その「大仕掛け」が何なのかは、知らないまま読んだ方がよいでしょう。

本作では、答えそのものより、

どのようにそこへたどり着くのか

を楽しむことが重要です。

前作『時計館の殺人』とはかなり違う

館シリーズを刊行順に読んでいる場合、『黒猫館の殺人』の前は『時計館の殺人』です。

この2作品は、同じシリーズでもかなり印象が違います。

『時計館の殺人』では、時計館の内部で起きる事件と、館の外で進む調査が並行します。

閉ざされた館で次に何が起こるのか。

そこに強い緊張感があります。

一方、『黒猫館の殺人』は、すでに書かれた手記と、現在の鹿谷たちの調査から謎を追います。

そのため、

「次に誰が襲われるのか」

というサスペンスより、

「この手記はどこへつながっていくのか」

「鮎田冬馬とは誰なのか」

という興味が強くなります。

前作と同じような展開を想像して読むと、意外に感じるかもしれません。

シリーズが同じ形を繰り返していないところも、館シリーズのおもしろさです。

前作については「綾辻行人『時計館の殺人』感想・あらすじ|館シリーズ第5作の魅力」で紹介しています。

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『黒猫館の殺人』から読んでも大丈夫?

『黒猫館の殺人』で扱われる中心的な事件は、本作の中で進みます。

そのため、一冊だけでも物語を追うことはできます。

ただ、これから館シリーズを読むのであれば、第1作『十角館の殺人』から刊行順に読む方が楽しみやすいです。

理由は、鹿谷門実、江南孝明、中村青司といったシリーズをつなぐ人物や背景があるからです。

本作は第6作。

刊行順では、

『時計館の殺人』

↓

『黒猫館の殺人』

↓

『暗黒館の殺人』

と続きます。

すでに『時計館の殺人』まで読んでいるなら、そのまま本作へ進めば問題ありません。

そして次作は、シリーズの中でも特に長い『暗黒館の殺人』です。

『黒猫館の殺人』を読み終えた方は、シリーズ第7作『暗黒館の殺人』の書評も参考にしてください。

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『黒猫館の殺人』で気になるところ

『時計館の殺人』のような緊迫感を期待すると少し違う

『黒猫館の殺人』は、現在進行形で次々と事件が起き続けるタイプの作品とは少し違います。

物語の大きな手掛かりになるのは、過去について書かれた手記です。

そのため序盤では、

手記を読む。

内容について考える。

調査を進める。

という流れが多くなります。

『時計館の殺人』のように、

「館の中で次に何が起きるのだろう」

という緊張感を期待すると、少し静かに感じるかもしれません。

一方で、一つ一つ情報を集めながら大きな答えへ近づいていくミステリーが好きなら、相性のよい作品です。

詳しいネタバレを見ない方がいい

『黒猫館の殺人』について検索すると、トリックや真相まで詳しく説明した記事も出てきます。

ただ、本作は事前に核心を知ってしまうと、初読の楽しさがかなり変わる作品です。

犯人名だけの問題ではありません。

物語全体に関わる仕掛けがあります。

そのため、未読の場合は、

「トリック」

「真相」

「ネタバレ」

といった検索結果を深く見る前に、まず作品を読む方がよいでしょう。

『黒猫館の殺人』はこんな人におすすめ

『黒猫館の殺人』は、派手な事件だけでなく、一つの謎をじっくり追いかけたい人に向いています。

特に、

館シリーズを刊行順に読んでいる。

記憶喪失や「自分は誰なのか」という謎が好き。

手記を使ったミステリーが好き。

伏線が後からつながる作品が好き。

読み終えたあと、前半を確認したくなる作品が好き。

こうした人とは相性がよいでしょう。

反対に、最初から最後まで連続殺人が続くようなスピード感を求める場合は、少し印象が違うかもしれません。

本作の魅力は、

大きな謎へ少しずつ近づいていく過程

にあります。

鮎田冬馬の正体と黒猫館の謎を、自分でも考えながら追ってみたい方に向いている一冊です。

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ここまではネタバレなしで紹介しました。

ここから先は、作品の構造やテーマについて少し踏み込みます。

ただし、犯人名、鮎田冬馬に関する核心、黒猫館に隠された秘密、具体的なトリック、事件の結末には触れません。

何も知らずに読みたい方は、ここで本編へ進んでください。

ここから軽いネタバレあり|『黒猫館の殺人』をもう少し深く考える

「記憶がない」という設定が最後まで効いてくる

鮎田冬馬には記憶がありません。

これは単に、

「過去を説明できないから鹿谷が調査する」

ためだけの設定ではありません。

本人ですら、自分について分からない。

だから鹿谷も江南も、一から鮎田の過去を追わなければなりません。

そして読者も同じ立場になります。

鮎田の話を聞いても、過去について直接確認することができない。

頼れるのは手記と調査で得られる情報だけです。

そのため、

「この人物はいったい誰なのか」

という疑問が、黒猫館で起きた事件と同じくらい大きな謎になっています。

事件と人物の謎を別々に見ていたものが、少しずつ近づいていく。

ここが本作のおもしろいところです。

手記だからこそ生まれる距離がある

読者が黒猫館で起きた出来事を知る方法の一つが、手記です。

つまり、事件を直接目撃するわけではありません。

誰かが文章として残したものを読むことになります。

これは、現在進行形で事件が起きる作品とはかなり違います。

何が起きたのか。

そのとき誰が何を考えていたのか。

手記の内容を読んだうえで、現在の鹿谷たちが調査する。

この距離があるからこそ、

「過去の出来事を現在から追い直す」

という本作独特の読み味が生まれています。

鹿谷と江南が旅をすることで謎が動いていく

本作では、鹿谷と江南が東京に座ったまま推理するわけではありません。

手掛かりを追って実際に移動します。

東京から札幌へ。

さらに阿寒へ。

手記に書かれた世界と、現在の現実を一つずつ照らし合わせていきます。

そのため後半になるほど、

「手記の中だけの謎」

だったものが現実へ近づいてきます。

読者も二人と一緒に、黒猫館へ近づいているような感覚があります。

この「調査の旅」があることで、静かな手記形式だけで終わらず、物語そのものも少しずつ動いていきます。

第6作だからこそ「館」に対する期待がある

館シリーズをここまで読んできた人なら、

「今回はどんな館なのだろう」

と当然考えます。

第1作から、それぞれに特徴のある館が登場してきたからです。

だから『黒猫館の殺人』というタイトルを見た時点で、読者は自分なりの館を想像します。

どんな建物なのか。

どんな仕掛けがあるのか。

中村青司は何を作ったのか。

その期待を持ったまま読むことも、本作の楽しみの一つです。

ただし、具体的にどのような意味を持つのかは、ここでは触れません。

講談社公式が「シリーズ屈指の大仕掛け」と紹介している理由は、実際に最後まで読んで確かめるのが一番です。

『黒猫館の殺人』感想まとめ

『黒猫館の殺人』は、綾辻行人さんの館シリーズ第6作です。

物語の始まりは、記憶を失った老人・鮎田冬馬からの奇妙な依頼。

自分が何者なのか分からない。

手元にあるのは、一冊の手記。

そこには、黒猫館で起きた事件について書かれています。

この設定だけでも、十分に謎があります。

しかし読み進めていくと、

黒猫館で何が起きたのか。

鮎田冬馬とは何者なのか。

なぜ彼はこの手記を持っているのか。

鹿谷と江南はどこへたどり着くのか。

いくつもの疑問が重なっていきます。

前作『時計館の殺人』のように、閉ざされた館で次々と事件が起きる作品とはかなり印象が違います。

その代わり、本作には、

過去に残された手記から、大きな謎を一つずつ掘り起こしていく面白さ

があります。

そして終盤では、講談社公式が「シリーズ屈指」と紹介する大仕掛けが待っています。

ここについては、何も知らずに読んだ方がよいでしょう。

館シリーズを『時計館の殺人』まで読んできた人。

伏線を追う本格ミステリーが好きな人。

記憶や人物の正体に関わる謎が好きな人。

読み終えたあと、もう一度前半を確認したくなる作品が好きな人。

そんな読者に向いている一冊です。

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