※上記は紙媒体の書籍です。
東野圭吾の短編集『探偵倶楽部』は、「名探偵が事件を解決する物語」を期待して読むと、少し奇妙な読後感を残します。
しかしその違和感こそが、本作最大の魅力です。
犯人探しや勧善懲悪では終わらない、人間の業と選択を静かに浮かび上がらせる――そんな大人向けのミステリー短編集となっています。
正体不明の〈探偵倶楽部〉という存在
本作に登場する〈探偵倶楽部〉は、会員制の調査機関。
依頼人は基本的に裕福な“セレブ層”ですが、その立場や事情はさまざまです。
彼ら探偵たちは決して表に出ず、名前も顔も明かされません。
ただ淡々と、依頼された「調査」という仕事を完璧に遂行します。
その冷静沈着さは、ときに怖いと感じるほどです。
依頼人の年齢や立場に一切左右されず、高校生の娘がお年玉で依頼してきた調査であっても、同じプロフェッショナルとして扱う。
その姿勢に、読者は安心感と同時に、言い知れぬ緊張感を覚えます。
「偽装の夜」に見る人間の嘘と覚悟
中でも印象的なのが「偽装の夜」です。
一見すると単純な浮気調査のようでありながら、調査が進むにつれて明らかになるのは、人が自分を守るためにつく“嘘”の重さです。
探偵倶楽部は真実を暴きますが、その先でどうするかは依頼人次第。
裁くことも、救うこともしません。
この距離感が実に東野圭吾らしい。
真実が明らかになった瞬間こそが物語の終点であり、そこから先の人生は読者の想像に委ねられます。
だからこそ、読後に静かな余韻が残るのです。
犯人探しでは終わらない短編集の妙
『探偵倶楽部』の物語は、「犯人は誰か?」という一点に収束しません。
「罠の中」や「薔薇とナイフ」でも描かれるのは、人が何を信じ、何を隠し、何を選ぶのかという心理の揺らぎです。
ときには、まさかそんな嘘が、と思わされる展開もあり、短編ながらしっかりとした捻りが効いています。
“名探偵”ではなく、あくまで“探偵”。
事件を解決して喝采を浴びる存在ではないからこそ、物足りなさを感じる人もいるでしょう。
しかしその抑制された描写こそが、人間ドラマを際立たせています。
読みやすさと余白を楽しむ東野圭吾
久しぶりに東野圭吾を読む人にも、本作はおすすめです。
文章は相変わらず読みやすく、短編集なのでテンポも良い。
一方で、「もっと読みたい」と感じる物足りなさが残るのも事実です。
しかしそれは欠点というより、余白の美しさと言えるでしょう。
読み終えた後も、探偵倶楽部の正体は明かされません。
だからこそ、彼らの存在がいつまでも心に引っかかる。
静かで、冷たくて、しかし誠実なプロフェッショナルたち――『探偵倶楽部』は、そんな不思議な魅力を持った一冊です。
※上記は紙媒体の書籍です。


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