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東野圭吾『毒笑小説』感想・あらすじ|全12編の見どころ【前半ネタバレなし】

東野圭吾『毒笑小説』感想・あらすじ|全12編の見どころ【前半ネタバレなし】

東野圭吾さんと聞くと、殺人事件や緻密なトリックを扱ったミステリーを思い浮かべる人も多いと思います。

ところが『毒笑小説』は、かなり雰囲気が違います。

孫と遊びたい老人たちが考えた、とんでもない計画。

善意のつもりなのに、周囲を困らせる人。

何でも決められた手順どおりに進めようとする警察。

そして、タイトルからして怪しい「殺意取扱説明書」。

設定だけ見ると、かなりバカバカしい話が並んでいます。

実際、笑える作品も多いです。

ただ、読み終えると、

「これ、笑っていたけれど結構怖い話だったのでは?」

と思うことがあります。

人間の欲や見栄、思い込み。

社会の妙な仕組み。

それらを少し極端にすると、笑えるのにどこか毒が残る。

そこが『毒笑小説』のおもしろさです。

この記事では、前半で全12編のあらすじと見どころをネタバレなしで紹介します。

後半では一部の作品について少し踏み込みますが、決定的なオチや結末は明かしません。

東野圭吾『毒笑小説』とは?

『毒笑小説』は、東野圭吾さんによるブラックユーモア短編集です。

項目内容
書名毒笑小説
著者東野圭吾
出版社集英社
単行本1996年7月
集英社文庫1999年2月19日
文庫版ページ数360ページ
収録作品全12編
ジャンルブラックユーモア・短編集

『怪笑小説』に続く、東野圭吾さんのブラックユーモア短編集です。

収録されているのは次の12編です。

  1. 誘拐天国
  2. エンジェル
  3. 手作りマダム
  4. マニュアル警察
  5. ホームアローンじいさん
  6. 花婿人形
  7. 女流作家
  8. 殺意取扱説明書
  9. つぐない
  10. 栄光の証言
  11. 本格推理関連グッズ鑑定ショー
  12. 誘拐電話網

すべて独立した短編なので、長編のように人物関係を覚え続ける必要はありません。

一話ずつ少しずつ読むこともできます。

『毒笑小説』は面白い?笑いだけでは終わらない

タイトルに「笑」と入っています。

ただ、明るいコメディを期待すると少し違います。

本人はいたって真剣。

でも、外から見ると何かがおかしい。

そんな人たちが多く登場します。

見栄。

欲。

思い込み。

過剰な善意。

承認されたい気持ち。

一つひとつは、誰にでも多少はありそうな感情です。

だからこそ、単純に登場人物を笑って終われません。

笑えるけれど、少し嫌なものも残る。

その「毒」が、本書の特徴です。

『毒笑小説』全12編のあらすじ・見どころ【ネタバレなし】

「誘拐天国」|孫と遊びたい老人たちの妙案

福富豊作は、忙しい孫となかなかゆっくり遊べません。

そこで麻雀仲間の老人たちが思いついたのが、とんでもない計画です。

発想は無茶ですが、本人たちは真剣。

『毒笑小説』の雰囲気をつかみやすい第1編です。

「エンジェル」|かわいい新生物が見つかったら

南太平洋の小島で、不思議な生物が発見されます。

天使のような姿から「エンジェル」と名づけられますが、普通の生物とは少し違います。

最初は不思議な話なのに、徐々に印象が変わっていきます。

私には、笑いよりも少し不気味さが残った作品でした。

「手作りマダム」|善意だからこそ断れない

毎月開かれるティーパーティー。

そこで披露されるのは、富岡夫人の手作り品です。

問題は、周囲の人たちがそれをどう感じているか。

しかも相手は夫の会社の重役夫人なので、簡単には本音を言えません。

私が本書の中でも特に印象に残った一編です。

「マニュアル警察」|自首したいのに手続きが進まない

妻を殺した男が、自首するため警察へやって来ます。

ところが警察では、何をするにも決められた手順が優先されます。

「まずこちらの手続きをしてください」

「その前にこれが必要です」

マニュアルを守ること自体が目的になったらどうなるのか。

社会風刺が分かりやすい作品です。

「ホームアローンじいさん」|一人の時間を楽しむはずが

家族が外出し、老人が一人で留守番することになります。

せっかく誰もいない。

普段できないことをしてみたい。

ところが、思わぬ出来事が起こります。

本書の中では比較的、痛快に楽しめた一編でした。

「花婿人形」|何でも母親任せの男が結婚したら

母親の指示がなければ、なかなか自分で物事を決められない男性。

そんな彼にも結婚の日がやって来ます。

ところが結婚式で、母親に確認しなければ分からないことが出てきます。

親子関係を極端な形で描いた作品です。

「女流作家」|なぜ本人だけが姿を見せない?

人気作家が出産のため連載を休みます。

復帰後はきちんと原稿が届くようになりますが、一つだけ不思議なことがあります。

作家本人が、まったく姿を見せないのです。

なぜ会えないのか。

12編の中でも「理由を知りたい」と思わせるミステリー色のある作品です。

「殺意取扱説明書」|殺意にも説明書があったら

古本屋で見つけた一冊。

タイトルは『殺意取扱説明書』。

日常的な「取扱説明書」と「殺意」という組み合わせだけでも妙です。

説明書に従おうとすることで、物語はおかしな方向へ進んでいきます。

「つぐない」|本書の中では少し違う読後感

ピアノ教師のもとへ、初老の男性が習いにやって来ます。

なぜ今になってピアノを始めるのか。

その理由が、この作品の中心です。

ブラックな笑いが並ぶ中で、私には少ししんみりした余韻が残りました。

「栄光の証言」|注目される快感

目立つことのなかった男性が、ある事件の重要な目撃者になります。

突然、人から話を聞かれる。

注目される。

自分の言葉が重要になる。

その状況によって、人の気持ちはどう変わるのか。

承認されたい気持ちを皮肉に描いた作品です。

「本格推理関連グッズ鑑定ショー」|ただの棒がお宝?

父親が息子へ残した、二本の木の棒。

一見すると何の価値もなさそうです。

しかし、分かる人には大きな意味があると言います。

そこで鑑定番組へ持ち込むことに。

ミステリー好きほどニヤリとしやすい題材です。

「誘拐電話網」|知らない子の身代金を払えと言われたら

ある男性のもとへ「子どもを誘拐した」という電話がかかってきます。

しかし、彼には子どもがいません。

誘拐されたのは、まったく知らない子ども。

それでも身代金を払わなければ、その子に何か起こるかもしれない。

自分ならどうするか。

12編の最後にふさわしい、かなり変わった誘拐ものです。

特に印象に残った3編

12編それぞれに違ったおもしろさがあります。

その中で、私が特に印象に残ったのは、

  • 手作りマダム
  • ホームアローンじいさん
  • つぐない

です。

「手作りマダム」は、誇張されているのに現実にもいそうなところが怖い。

「ホームアローンじいさん」は、ブラックさがありながら比較的気楽に楽しめました。

そして「つぐない」は、他の作品とは少し違い、笑いよりも切なさが残りました。

全12編が同じ雰囲気ではないため、短編集として飽きにくいのもよいところです。

『怪笑小説』との違いは?どちらから読んでも大丈夫

『毒笑小説』を調べると、『怪笑小説』という作品も見つかります。

『怪笑小説』は、本作より先に刊行されたブラックユーモア短編集です。

ただし、物語が続いているわけではありません。

登場人物や事件も基本的に独立しています。

そのため、

どちらから読んでも問題ありません。

『怪笑小説』は全9編。

『毒笑小説』は全12編。

どちらも、普段のシリアスな東野圭吾作品とは違う一面を楽しめます。

『怪笑小説』の全9編については、こちらの記事でネタバレを抑えて紹介しています。

東野圭吾『怪笑小説』感想・あらすじ|9編の見どころを紹介【前半ネタバレなし】
東野圭吾『怪笑小説』の感想・あらすじを紹介。全9編の見どころを前半はネタバレなしで解説し、後半では結末を伏せて作品の魅力を考察。笑えるのに少し怖い、ブラックユーモア短編集の読みどころをまとめます。

東野圭吾初心者でも読みやすい?

短編集なので、読みやすさという点では初心者にも向いています。

一話ごとに話が完結するため、

「今日は一編だけ」

という読み方もできます。

ただし、

「東野圭吾の代表的なミステリーをまず一冊読みたい」

という人には、最初の候補ではないかもしれません。

『毒笑小説』は犯人当てを中心にした本格ミステリーではなく、ブラックユーモアを楽しむ本です。

そのため、

重いミステリー以外の東野圭吾も読んでみたい人

には特に向いています。

文庫版は京極夏彦との特別対談も収録

集英社文庫版の巻末には、東野圭吾さんと京極夏彦さんによる特別対談が収録されています。

12編を読み終わったあとに、「笑い」をめぐる二人の話を読める構成です。

短編だけで終わらず、巻末まで楽しめるのも文庫版の特徴です。

『毒笑小説』がおすすめな人・合わないかもしれない人

おすすめなのは、

  • ブラックユーモアが好きな人
  • 東野圭吾の違った一面を読みたい人
  • 長編より短編を少しずつ読みたい人
  • 人間や社会を皮肉った作品が好きな人
  • 笑えるだけでなく少し不気味な話も好きな人

です。

一方、

  • 本格的な犯人当てだけを期待する人
  • ブラックな笑いが苦手な人
  • すべて同じ雰囲気の短編を読みたい人

には、少し合わない可能性があります。

12編で題材も雰囲気もかなり違います。

そのため、

「次はどんな方向から毒を入れてくるのだろう」

と一編ずつ楽しむ読み方が合っています。

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ここからは一部の作品に少し踏み込みます

ここから先は、作品のテーマや途中の展開について少し触れます。

決定的なオチや結末には触れません。

完全に予備知識なしで読みたい方は、ここまでで本編へ進んでください。

【軽いネタバレあり】「手作りマダム」は善意だからこそ怖い

私が特に印象に残ったのが「手作りマダム」です。

この話で厄介なのは、誰かが意地悪をしているわけではないところです。

本人は、周囲に喜んでもらいたいと思っている。

周囲も、それが善意だと分かっています。

だからこそ、

「正直、困ります」

と言いにくい。

この関係がどんどん苦しくなっていきます。

悪意なら嫌える。

でも善意だと簡単には拒めない。

善意と迷惑は、同時に成立することもある。

かなり大げさな話なのに、どこか現実味があります。

そこが私には怖く感じました。

【軽いネタバレあり】12編にある「毒」は人間にも社会にも向いている

『毒笑小説』で笑われているのは、変わった個人だけではありません。

人間の欲。

見栄。

承認欲求。

思い込み。

それだけでなく、

組織。

制度。

世間の空気。

そうしたものも笑いの対象になります。

「マニュアル警察」は、その分かりやすい例です。

本来、人を助けるための仕組みなのに、仕組みを守ることが目的になる。

極端な話ではあります。

でも、

「絶対に現実にはない」

とも言い切れません。

ありえないようで、少しくらいありそう。

その距離感が、本書の「毒」になっています。

【軽いネタバレあり】「つぐない」があるから一冊の印象が単調にならない

12編の多くにはブラックな笑いがあります。

その中で「つぐない」は、少し違います。

ピアノを習いたい初老の男性。

なぜ、今になってピアノなのか。

その理由が見えてくるにつれ、笑いとは違う感情が残ります。

私はこの作品では、ブラックユーモアよりも少ししんみりした気持ちの方が強く残りました。

全部が皮肉や悪意だけなら、一冊を読み終えるころには少し疲れてしまうかもしれません。

そこに違った温度の作品が入ることで、『毒笑小説』全体にも幅が出ています。

まとめ|『毒笑小説』は12通りの「毒」を楽しめる短編集

『毒笑小説』は、東野圭吾さんによる全12編のブラックユーモア短編集です。

誘拐。

不思議な生物。

迷惑な善意。

警察のマニュアル。

老後。

親子。

作家。

殺意。

ピアノ。

承認欲求。

本格推理。

そして再び誘拐。

題材は驚くほどバラバラです。

それでも読み終わると、

人間や社会のおかしなところを、少し極端にして見せる

という共通点が見えてきます。

私が特に印象に残ったのは「手作りマダム」。

大げさなのに、どこか身近です。

一方で、「ホームアローンじいさん」のように比較的痛快な話もあれば、「つぐない」のようにしんみりする話もあります。

だから12編あっても単調になりません。

シリアスな東野圭吾作品とはかなり雰囲気が違います。

それでも、人間を見る目の鋭さは共通しています。

笑って終わるだけではなく、そのあと少し考えさせられる。

そこが『毒笑小説』の魅力です。

ブラックユーモアが好きな人はもちろん、「いつもと違う東野圭吾を読んでみたい」という人にもおすすめできる一冊です。

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