
東野圭吾さんの『ある閉ざされた雪の山荘で』。
タイトルを見たとき、私はてっきり「大雪によって山荘に閉じ込められ、その中で殺人事件が起こる」という王道の雪山ミステリーだと思っていました。
ところが、実際に読んでみると少し違います。
舞台となるのは乗鞍高原にあるペンション。
そこに集められた役者たちは、
「ここは記録的な豪雪によって外の世界から完全に閉ざされた山荘である」
という設定のもとで数日間を過ごすことになります。
つまり、本当に雪で閉じ込められているわけではありません。
それでも外へ出られない。
正確には、出ようと思えば出られるのに、出ることができない状況が作られているのです。
そして、その中で一人、また一人と仲間が姿を消していきます。
これは舞台稽古なのか。
それとも、本当に何かが起きているのか。
最初は落ち着いて読んでいた私も、途中から誰の言葉を信じていいのか分からなくなってきました。
この記事では、犯人・真相・結末には触れません。
これから『ある閉ざされた雪の山荘で』を読もうか迷っている方に向けて、あらすじや登場人物、実際に読んで感じた面白さをネタバレなしで紹介します。
『ある閉ざされた雪の山荘で』とは?
作品の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ある閉ざされた雪の山荘で |
| 著者 | 東野圭吾 |
| ジャンル | 長編ミステリー |
| 出版社 | 講談社 |
| 初刊 | 1992年 |
| 文庫版発売 | 1996年 |
| 文庫版ページ数 | 306ページ |
| 映像化 | 2024年に実写映画化 |
『ある閉ざされた雪の山荘で』は、東野圭吾さんの比較的初期に書かれた長編ミステリーです。
限られた場所に複数の人物が集まり、その中で疑いが広がっていくという、本格ミステリーらしい設定が使われています。
ただし、一般的な「雪の山荘もの」とは少し違います。
この作品では、山荘そのものが舞台劇の設定として作られているからです。
どんな作品なのか?
物語に登場するのは、舞台のオーディションに合格した7人の若い役者たちです。
彼らは演出家からの指示を受け、乗鞍高原のペンションへ集まります。
そこで与えられたのが、
「大雪によって外界から孤立した山荘で生活している」
という設定でした。
参加者は外部と連絡を取ってはいけません。
勝手に外へ出ることも禁止されています。
もしルールを破れば、舞台への出演資格を失います。
本当は電話もあります。
外へ出ようと思えば出ることもできます。
それでも役者としてチャンスをつかみたい彼らにとって、簡単にルールを破ることはできません。
私はこの設定を知った時点で、かなり面白いと思いました。
普通のクローズドサークルなら、雪や嵐、交通手段の断絶によって「出られない」のが定番です。
ところが本作では、自分たちの意思でその場所に残り続けるのです。
この違いが、後になってじわじわ効いてきます。
『ある閉ざされた雪の山荘で』のあらすじ【ネタバレなし】
ある舞台のオーディションに合格した7人の男女が、乗鞍高原のペンションへ集められます。
しかし、そこに演出家の姿はありません。
彼らに与えられていたのは、特殊な舞台稽古の指示だけでした。
ペンションを「大雪によって外部から孤立した山荘」に見立て、数日間その設定を守りながら生活する。
そして、その中で起こる出来事に対応しながら、一つの芝居を作り上げていく。
最初のうちは、少し変わった舞台稽古にすぎません。
ところが翌朝、参加者の一人が姿を消します。
残されたメンバーは、
「殺され役として舞台から退場したのだろう」
と考えます。
ところが、その後も仲間が姿を消していきます。
人数が減るにつれて、山荘の中の空気も少しずつ変わっていきます。
本当にすべて演出なのか。
もし違うとしたら、いったい何が起きているのか。
私は途中で何度か、
「これはこういう仕組みなのでは?」
と自分なりに予想しました。
しかし、少し読み進めるたびにまた分からなくなる。
この感覚が最後まで続きます。
本作は、先の展開を知らないほど楽しみやすい作品だと思うので、あらすじはこのくらいで止めておきます。
ここまで読んで「続きが気になる」と感じた方は、これ以上詳しく調べずにそのまま読んでみるのがおすすめです。

『ある閉ざされた雪の山荘で』の主な登場人物
本作は、オーディションを通過した7人の役者を中心に進みます。
序盤では一気に複数の人物が登場するので、最初だけ「この人は誰だったかな?」となるかもしれません。
ただ、舞台となる場所も登場人物も限られているため、読み進めていけば自然に覚えられました。
| 登場人物 | ネタバレなしの紹介 |
|---|---|
| 久我和幸 | 物語の中心となる人物。ほかの6人とは別の劇団からオーディションに参加している |
| 中西貴子 | オーディションに合格した女性劇団員 |
| 田所義雄 | オーディションに参加する男性劇団員 |
| 元村由梨江 | オーディションに参加する女性劇団員 |
| 笠原温子 | オーディションに参加する女性劇団員 |
| 雨宮京介 | オーディションに参加する男性劇団員 |
| 本多雄一 | オーディションに参加する男性劇団員 |
人物紹介をあえて簡単にしているのは、この作品では「誰がどんな人物なのか」を自分で少しずつ見ていくことも面白さの一つだからです。
そして、忘れてはいけないのが全員役者であること。
普通なら、表情や態度を見て、
「この人は怪しいな」
と考えられる場面でも、
「でも、役者なら演技かもしれない」
という疑いが残ります。
この設定のおかげで、登場人物を見る目まで少しずつ変わっていきました。
『ある閉ざされた雪の山荘で』は面白い?実際に読んだ感想
「劇なのか現実なのか」が分からなくなる設定が面白い
私が一番面白いと感じたのは、やはりこの部分です。
普通のミステリーなら、事件が起これば、
「犯人は誰だろう?」
と考えます。
ところが本作では、その前に一つ考えなければならないことがあります。
そもそも本当に事件が起きているのか。
誰かが姿を消しても、それは最初から用意された演出かもしれません。
怪しいものが見つかっても、小道具の可能性があります。
一方で、
「すべて芝居なのだから大丈夫」
と思い込んでいること自体が危険なのではないか。
そんな疑いも出てきます。
この二つの可能性を行ったり来たりしているうちに、私も完全に物語の中へ引き込まれていました。
自分なりに答えを出してみても、少し状況が変わるとまた考え直したくなる。
単純な犯人当てとは違った楽しさがあります。
全員が役者だからこそ誰も信用できなくなる
この作品では、登場人物全員が舞台役者です。
これが思っていた以上に厄介でした。
誰かが怖がっている。
誰かが動揺している。
誰かが妙に落ち着いている。
普通なら、そういった反応から人柄や本音を読み取ろうとします。
でも相手は役者です。
表情や態度そのものが演技かもしれません。
私はミステリーを読むとき、登場人物のちょっとした言葉や態度から「怪しい人物」を探すことが多いのですが、本作ではそれすら簡単にはできませんでした。
「この人は何か隠している」
と思っても、
「わざとそう見せているだけでは?」
と考えてしまう。
この疑いがずっと消えません。
「出られない」のではなく「出ない」閉鎖空間が面白い
個人的にかなり好きだったのが、この設定です。
山荘から逃げようと思えば逃げられる。
電話を使うこともできる。
それでも、参加者たちは山荘に残ります。
理由は単純で、舞台に出演したいからです。
ここで外へ出てしまえば、それまで勝ち取ってきたチャンスを失うかもしれない。
もし起きていることが全部芝居だったら、自分だけがルールを破ったことになります。
そう考えると、簡単には動けません。
彼らを閉じ込めているのは大雪ではなく、
「役者として成功したい」という気持ち
なのです。
物理的な密室ではなく、人間の心理が作る閉鎖空間。
この発想はとても印象に残りました。
人数が減るほど緊張感が増していく
最初は7人います。
人数が多いうちは、まだどこか余裕があります。
誰かがいなくなっても、
「舞台上の設定なのだろう」
と思える。
ところが人数が少しずつ減っていくと、同じペンションなのに雰囲気まで変わって見えてきます。
会話の意味も変わってくる。
さっきまで普通に話していた相手の一言が、急に気になってくる。
一人減るだけで、残された人間の存在感が大きくなるのです。
派手な恐怖演出が続くわけではありません。
それでも、
「何かがおかしい」
という感覚が少しずつ強くなっていく。
このじわじわした緊張感はかなり楽しめました。
自分でも真相を推理したくなる
私はミステリーを読むと、途中で勝手に推理を始めてしまいます。
本作でも、
「この人が怪しいのでは?」
「いや、こちらの人物かもしれない」
と考えながら読みました。
ただし、本作では人物だけを疑えばよいわけではありません。
芝居の仕組み。
消えた人物。
演出家の意図。
山荘に集められた理由。
いくつもの疑問を同時に考えることになります。
それでも、難解すぎて置いていかれる感じはありませんでした。
「自分にも分かるかもしれない」
と思わせてくれる程度の情報があるので、つい推理したくなります。
答えを見るだけではなく、そこへたどり着く過程を楽しみたい人には相性がいいと思います。
テンポがよく東野圭吾初心者にも読みやすい
仕掛けだけを聞くと少し複雑そうですが、文章はかなり読みやすいです。
物語の舞台もほぼペンション内に限られています。
登場人物も主要な7人が中心です。
そのため、途中から人物や場所が次々に増えて複雑になるタイプではありません。
状況が一つ変わる。
登場人物たちが考える。
また新しい疑問が出てくる。
この繰り返しでテンポよく進んでいきます。
普段あまり本格ミステリーを読まない方や、東野圭吾さんの作品をこれから読んでみたい方でも入りやすい一冊だと思いました。
『ある閉ざされた雪の山荘で』は怖い?グロい?
タイトルやあらすじを見ると、
「怖い作品なのでは?」
「残酷な描写が多いのでは?」
と気になる方もいると思います。
私が読んだ印象では、ホラー小説のような怖さが中心の作品ではありません。
また、強烈な残酷描写を見せることが目的の作品でもありません。
もちろん殺人を題材にしているため、不穏な場面や緊張感はあります。
ただ、それ以上に強いのが、
「次に何が起こるのか」
「目の前の人を信用していいのか」
という心理的な怖さです。
血の描写よりも、人間関係が少しずつ変化していく不安の方が印象に残りました。
そのため、
「ミステリーは好きだけれど、グロテスクな作品は少し苦手」
という方でも比較的読みやすいと思います。
『ある閉ざされた雪の山荘で』がおすすめな人
実際に読んでみて、特に次のような方におすすめしたい作品です。
- クローズドサークルものが好きな人
- 登場人物を疑いながら読むのが好きな人
- 自分で真相を推理したい人
- 最後まで仕掛けを考えながら読むミステリーが好きな人
- 東野圭吾作品を初めて読んでみたい人
- 難しすぎない本格ミステリーを探している人
- 舞台や演劇を使った少し変わった設定が好きな人
反対に、
警察が地道に捜査を進めていく刑事ものや、社会問題を深く掘り下げる社会派ミステリーを読みたい方には、少し方向性が違うかもしれません。
この作品の面白さは、限られた人物と場所の中で、
「何を信じればいいのか」
を考え続けるところにあります。
私は、こういう作品は事前情報を入れすぎない方が楽しめると思っています。
気になっているのであれば、検索で詳しい解説を探す前に読んでしまうのがおすすめです。
自分でも真相を考えながら読みたい方は、できるだけネタバレを避けた状態で挑戦してみてください。

『仮面山荘殺人事件』との違いは?
『ある閉ざされた雪の山荘で』が気になった方には、同じ東野圭吾さんの『仮面山荘殺人事件』もおすすめです。
どちらも、
「山荘」
「限られた登場人物」
「互いへの疑い」
といった要素があります。
ただ、実際に読んでみると面白さの方向はかなり違います。
『ある閉ざされた雪の山荘で』では、舞台劇という設定があることで、目の前で起きていること自体を疑いたくなります。
一方、『仮面山荘殺人事件』では、自分が無意識に受け入れている前提そのものを見直したくなる感覚がありました。
どちらも読者の思い込みを利用するタイプのミステリーですが、同じ作品を読んでいるような印象にはなりません。
私は、少し間を空けて読む方がおすすめです。
似た雰囲気を持ちながらも違った面白さがあるので、それぞれ新鮮な状態で楽しめます。

山荘ミステリーが好きなら『白馬山荘殺人事件』もおすすめ
もう一冊、東野圭吾さんの山荘ミステリーとして紹介したいのが『白馬山荘殺人事件』です。
こちらも山荘が舞台ですが、『ある閉ざされた雪の山荘で』とはかなり雰囲気が違います。
『白馬山荘殺人事件』では、白馬のペンションを舞台に、マザー・グースに隠された暗号を追っていきます。
そのため、
「暗号を解く楽しさ」
「過去の出来事を少しずつ明らかにしていく面白さ」
が強い作品です。
『ある閉ざされた雪の山荘で』が「何を信じればよいのか」を楽しむ作品だとすれば、『白馬山荘殺人事件』は「残された謎をどう解くか」を楽しむ作品という印象があります。
同じ東野圭吾さんの初期作品でも、仕掛けの作り方がかなり違います。
山荘を舞台にした本格ミステリーが好きな方なら、読み比べてみるのも面白いと思います。

まとめ|『ある閉ざされた雪の山荘で』はネタバレなしで挑戦してほしいミステリー
『ある閉ざされた雪の山荘で』は、犯人だけを考えればいいミステリーではありません。
舞台の設定。
役者たちの言葉。
一人ずつ減っていく参加者。
そして、自分が当たり前だと思っていた状況まで少しずつ疑いたくなってきます。
私が特に面白いと感じたのは、本当なら外へ出ることができるのに、「舞台に出演したい」という気持ちによって自分たちから山荘に残り続ける設定でした。
さらに登場人物は全員役者です。
普通なら本音を読み取る手がかりになる表情や態度さえ、簡単には信用できません。
この二つの設定が組み合わさることで、普通の山荘ミステリーとは少し違った読み味になっています。
文章も比較的読みやすく、テンポよく進むため、東野圭吾さんを初めて読む方にもおすすめしやすい作品です。
ただし、この作品は詳しく知ってから読むよりも、何も知らない状態で読んだ方が楽しめると思います。
「自分ならどう考えるだろう」
と登場人物と一緒に迷いながら読んでみてください。



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