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綾辻行人『水車館の殺人』感想・書評|あらすじとトリックをネタバレ解説

綾辻行人『水車館の殺人』感想・書評|あらすじとトリックをネタバレ解説

『十角館の殺人』を読み終えたあと、次の館ではどんな仕掛けが待っているのだろう。

そんな気持ちで手に取ったのが、館シリーズ第2作『水車館の殺人』でした。

「水車館」というタイトルだけを見ると、水車を利用した大掛かりなトリックを想像してしまいます。

ところが、実際に読んで強く印象に残ったのは、水車そのものよりも館に漂う何ともいえない不気味さでした。

山奥に建つ異形の館。

顔を隠すため、常に仮面をつけている主人。

外の世界から切り離されたように暮らす若い妻。

そして、一年前の嵐の夜に起こった不可解な事件。

最初から何かがおかしいのですが、何がおかしいのかはなかなか分かりません。

さらに物語は「一年前」と「現在」を交互に描きながら進んでいきます。

読み進めているうちに、

「なぜ、わざわざ二つの時間を交互に描いているのだろう?」

という疑問も湧いてきました。

そして真相を知ったとき、その理由まで含めて「なるほど」と思わされます。

『十角館の殺人』とはまた違う方法で、読者の思い込みを利用してくる作品です。

この記事では、前半でネタバレなしのあらすじや感想を紹介し、後半では犯人やトリック、伏線について詳しく触れていきます。

未読の方は「ここから重大なネタバレあり」の見出しまでお読みください。


  1. 『水車館の殺人』の基本情報
  2. 『水車館の殺人』のあらすじ【ネタバレなし】
  3. 読んでいて一番気になったのは「水車館の居心地の悪さ」
  4. 一年前と現在が交互に描かれる構成が面白い
  5. 仮面をつけた藤沼紀一をどうしても疑ってしまう
  6. 前半は少し静か。でも後半になると印象が変わる
  7. 『十角館の殺人』とは面白さの種類が違う
  8. 『水車館の殺人』はこんな人におすすめ
  9. ここから『水車館の殺人』の重大なネタバレあり
  10. 『水車館の殺人』の犯人と事件の真相
  11. 一年前の事件はどのように作られたのか
  12. 一年前に起きた3つの謎を整理
    1. 根岸文江はなぜ塔から転落したのか
    2. 古川恒仁はどこへ消えたのか
    3. 盗まれた絵「噴水」はどこへ行ったのか
  13. 由里絵は事件についてどこまで知っていたのか
  14. 「一年間、本当に誰も気づかなかったのか?」という疑問
  15. 『水車館の殺人』を読み返すと分かる4つの伏線
    1. 読み返すと分かる伏線① 現在と過去で「人称」が違う
    2. 読み返すと分かる伏線② 「色」の見え方がおかしい
    3. 読み返すと分かる伏線③ 仮面・手袋・車椅子
    4. 読み返すと分かる伏線④ 本物の紀一はどこへ消えたのか
  16. 最後に残る「幻影群像」が一番不気味だった
  17. 『水車館の殺人』を読み終えて感じたこと
  18. 『水車館の殺人』の次は『迷路館の殺人』
  19. まとめ|『水車館の殺人』は真相を知ってからもう一度読みたくなる

『水車館の殺人』の基本情報

項目内容
作品名水車館の殺人
著者綾辻行人
ジャンル本格ミステリー
シリーズ館シリーズ第2作
初刊1988年
新装改訂版講談社文庫
新装改訂版発売日2008年4月15日
ページ数464ページ

『水車館の殺人』は、綾辻行人さんによる「館シリーズ」の第2作です。

前作『十角館の殺人』と同じく、奇妙な建築家・中村青司が設計した館が事件の舞台となります。

ただ、十角館と水車館では雰囲気がかなり違います。

孤島という分かりやすい閉鎖空間だった十角館に対して、水車館は山奥にひっそり建つ異形の館。

読んでいると、「閉じ込められている」というより、外の世界から自ら離れて暮らしている人たちの中へ入り込んでしまったような感覚があります。

館シリーズを順番に読んでいると、この違いも面白いところです。

館シリーズ第1作については、こちらの「綾辻行人『十角館の殺人』感想・書評」で詳しく紹介しています。

『十角館の殺人』感想・書評|衝撃の一行がすごい理由【ネタバレあり】
綾辻行人『十角館の殺人』をネタバレなし・ありに分けて紹介。実際に読んで感じた魅力や気になった点、「衝撃の一行」がなぜすごいのか、犯人や伏線、動機まで詳しく考察します。館シリーズを初めて読む方にもおすすめです。

『水車館の殺人』のあらすじ【ネタバレなし】

舞台は、岡山県の山あいに建つ「水車館」。

古城を思わせるような建物には、三基の巨大な水車が備えられています。

館の主人は藤沼紀一。

過去の自動車事故によって顔や手足に大きな傷を負った紀一は、人前では白い仮面をつけ、車椅子で生活しています。

館には若い妻・由里絵も暮らしています。

そして水車館には、紀一の父である幻想画家・藤沼一成が残した多くの作品が集められていました。

普段、それらの作品が他人の目に触れることはありません。

しかし年に一度だけ、一成と関係の深い数人の客が水車館を訪れ、作品を見ることを許されています。

問題が起きたのは、一年前のその日でした。

嵐に包まれた水車館で、一人の女性が塔から転落。

一枚の絵が消え、一人の男も姿を消します。

さらに、館に滞在していた一人の男が無残な姿で発見されます。

そして、姿を消した人物に事件の疑いが向けられました。

しかし、一年が過ぎてもその人物は見つかりません。

そして事件からちょうど一年後。

再び客たちが水車館へ集まります。

そこへ現れたのが、古川の友人でもある島田潔でした。

古川は本当に犯人だったのか。

一年前、水車館では何が起きていたのか。

終わったはずの事件が、島田の訪問によって再び動き始めます。


読んでいて一番気になったのは「水車館の居心地の悪さ」

『水車館の殺人』を読んでいて、まず印象に残ったのは館そのものです。

大きな水車。

薄暗い館内。

仮面をつけた主人。

ほとんど外の世界と接しない妻。

普通とは言いにくい環境なのですが、水車館で暮らしている人たちは、それを日常として受け入れています。

読んでいる側だけが、

「何か変じゃないか?」

と感じているような状態です。

この感覚が妙に落ち着きません。

派手なホラーではありませんし、何かが突然飛び出してくるわけでもありません。

それでも、館のどこかに見てはいけないものが隠されているような気がする。

個人的には、こういう静かな不気味さが『水車館の殺人』の魅力だと思いました。

館シリーズという名前の通り、「事件が起きる場所」ではなく、館そのものが物語の一部になっているのです。


一年前と現在が交互に描かれる構成が面白い

本作では、一年前に起きた事件と現在の出来事が交互に描かれます。

章が変わるごとに時間が切り替わるので、「今はどちらの話なのか」は比較的分かりやすくなっています。

ただ、何日か間を空けながら読むと、

「この人物は一年前に何をしていたんだっけ?」

と少し戻って確認したくなる場面はありました。

最初は、

「普通に一年前の事件を全部描いてから現在に戻ればいいのでは?」

とも思います。

しかし、読み終えてから考えると、この二つの時間軸には大きな意味があります。

しかも違うのは時間だけではありません。

文章の「視点」まで変わっています。

初めて読んでいるときには、それを単なる構成上の違いとして読み流してしまいやすい。

ところが真相を知ると、

「あの書き方自体がヒントだったのか」

と分かります。

詳しくは後半のネタバレ部分で触れますが、本作で特に面白かった仕掛けの一つです。


仮面をつけた藤沼紀一をどうしても疑ってしまう

ミステリー好きなら、藤沼紀一を見て何も疑わないというのは難しいでしょう。

白い仮面。

手袋。

車椅子。

かすれた声。

あまりにも特徴が多い人物だからです。

当然、

「この仮面には何か仕掛けがあるのでは?」

と考えます。

私もかなり気になりました。

ただ、ここで面白いのが、

「これだけ分かりやすく怪しいのだから、逆に関係ないのでは?」

とも思ってしまうことです。

ミステリーでは、怪しいものを素直に疑えばいいとは限りません。

作者がわざと怪しく見せているのかもしれない。

そう考えているうちに、今度は別のところへ意識が向きます。

後から振り返ると、読者がそうやって迷っていること自体が、うまく利用されていたように感じました。


前半は少し静か。でも後半になると印象が変わる

『水車館の殺人』は、最初から次々と殺人事件が起きるタイプのミステリーではありません。

一年前の事件を確認したり、館に集まった人物たちの関係を描いたりする時間が比較的長く取られています。

そのため、

「もっとテンポよく事件が起きてほしい」

という人には、前半が少しゆっくり感じられるかもしれません。

私もどちらかというと、前半より後半のほうが楽しめました。

島田潔が一年前の出来事を整理し始めると、

「では、あれはどういう意味だったのか」

「この人の証言は本当に正しいのか」

と、それまで読んできた内容が次々と気になってきます。

最初はただ不気味に見えた館の設定にも、少しずつ意味が生まれてくる。

後半になるほど面白さが増していく作品だと思います。


『十角館の殺人』とは面白さの種類が違う

前作『十角館の殺人』と比較したくなる人も多いと思います。

私も読んでいる間、何度か十角館を思い出しました。

簡単に比べると、こんな印象です。

比較十角館の殺人水車館の殺人
主な舞台孤島山奥の館
雰囲気閉じ込められる怖さ館に秘密がある不気味さ
構成比較的シンプル過去と現在が交互
驚き方一瞬の衝撃が強い後から伏線がつながる
読後「やられた」が強い読み返したくなる

『十角館の殺人』は、ある瞬間に景色が一気に変わるタイプの驚きがあります。

『水車館の殺人』は、それとは少し違います。

真相を知ってから、

「あの場面もそうだったのか」

「だから、あの書き方だったのか」

と前のページを振り返りたくなる作品です。

個人的には『十角館』のほうが衝撃は大きかったのですが、仕掛けを後から確認する楽しさは『水車館』もかなり強いと感じました。


『水車館の殺人』はこんな人におすすめ

『水車館の殺人』は、次のような人には特におすすめできます。

  • 『十角館の殺人』を読んで館シリーズが気になった
  • 古い館を舞台にしたミステリーが好き
  • 仮面や隠し部屋などの設定に惹かれる
  • 犯人を自分で推理しながら読みたい
  • 叙述や視点を使った仕掛けが好き
  • 読了後に伏線を確認するのが好き

反対に、

  • 最初から事件が次々に起きてほしい
  • 過去と現在を行き来する物語が苦手
  • 現実性をかなり重視してミステリーを読む

という人は、少し好みが分かれるかもしれません。

それでも館シリーズを順番に読むのであれば、飛ばさずに読んでおきたい一冊です。

『水車館の殺人』は、犯人やトリックを知らないほど楽しめる作品です。これから読む方は、この先のネタバレ部分を見る前に本編を読んでみてください。

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ここから『水車館の殺人』の重大なネタバレあり

ここからは、犯人・トリック・事件の真相・結末まで触れています。

未読の方はご注意ください。

特にこの作品は、ある人物について読者が持っていた「前提」そのものを利用したミステリーです。

何も知らずに読めるのであれば、そのほうが楽しめると思います。


『水車館の殺人』の犯人と事件の真相

一年前から続く事件の中心にいたのは、正木慎吾でした。

そして最大の仕掛けは、現在の水車館で藤沼紀一として暮らしていた人物が、本物の紀一ではなかったことです。

仮面の下にいたのは正木慎吾。

一年前に殺害されたと思われていた人物が、実は生きていました。

ここを知ったとき、最初に思い出すのはやはり仮面です。

顔が見えない。

手袋で手も隠れている。

車椅子に座っている。

声にも特徴がある。

初めて読んでいると、

「事故で大きな傷を負った藤沼紀一だから」

と受け入れてしまいます。

しかし実際には、その特徴のすべてが別人であることを隠す条件として働いていました。

作者が仮面の存在を隠していたわけではありません。

最初から堂々と書いてあります。

それなのに、こちらが勝手に意味を決めつけていた。

この騙され方はかなり好きでした。


一年前の事件はどのように作られたのか

正木は自分が死亡したように見せかけるため、古川恒仁を利用します。

古川を殺害し、その遺体を解体。

さらに自分自身の左手薬指を切断して残すことで、焼却された遺体を「正木慎吾のもの」だと思わせました。

その一方で古川は姿を消した状態になります。

結果として周囲から見ると、

正木が殺され、犯人の古川が逃亡した

という事件になります。

ところが実際には逆です。

死んだと思われていた正木が生きていて、逃げたと思われていた古川が殺されていた。

この入れ替えが一年前の事件の土台になっています。

その後、正木は本物の藤沼紀一を襲い、紀一になりすまして水車館で暮らし始めます。


一年前に起きた3つの謎を整理

『水車館の殺人』は、一年前の出来事がいくつも重なっているため、読み終わってから整理するとかなり分かりやすくなります。

根岸文江はなぜ塔から転落したのか

一年前に水車館で働いていた家政婦・根岸文江は、塔から転落して死亡します。

当初は事故のようにも見えます。

しかし実際には、正木による犯行でした。

文江は紀一の身の回りの世話をしていた人物です。

そのため、正木が紀一になりすました場合、違いに気づかれる可能性が高い。

正木にとって、文江は入れ替わりを成功させるために邪魔な存在だったわけです。

最初は事件の一つとして読んでいた文江の死も、真相が分かると入れ替わり計画とつながります。

古川恒仁はどこへ消えたのか

一年前の事件で特に不思議なのが、古川恒仁の消失です。

古川は二階にいたはずなのに、階下では人が見張るような状態になっており、普通に降りてくれば誰かに見られるはずでした。

では、どうやって消えたのか。

答えはかなり残酷です。

古川は生きたまま館から出たのではありません。

正木によって殺害されたあと遺体を解体され、窓から外へ運び出されました。

つまり、

「人間がどうやって密室から出たのか」

と考えている時点で、すでに作者の罠にはまっています。

出ていったのは、生きた一人の人間ではなかった。

本格ミステリーらしい解答ですが、想像するとかなり恐ろしいトリックです。

盗まれた絵「噴水」はどこへ行ったのか

一年前の事件では、藤沼一成が描いた「噴水」という絵も消えます。

そのため、古川が絵を盗んで逃げたのではないかと思わせる材料になります。

しかし「噴水」は、古川によって館の外へ持ち出されたわけではありませんでした。

由里絵によって館内に隠されていたのです。

古川の失踪。

盗まれたように見える絵。

正木の死亡。

それぞれを見ると別々の事件に思えます。

しかし実際には、古川を犯人に見せるための一つの流れとしてつながっていました。

ここが整理できると、一年前の事件がかなり見えやすくなります。


由里絵は事件についてどこまで知っていたのか

真相を知ると、由里絵の見え方も変わります。

前半だけを読んでいると、由里絵は水車館に閉じ込められるように暮らす若い妻という印象があります。

しかし実際には、正木の行動についてまったく何も知らなかったわけではありません。

「噴水」を隠すなど、正木に協力しています。

このあたりも私は少し複雑に感じました。

水車館で暮らす人物たちは、一見すると「紀一によって閉じ込められている人」と「紀一に仕えている人」に見えます。

ところが読み終えると、それぞれが表からは見えない事情を抱えている。

水車館の不気味さは建物だけではなく、そこに暮らしている人同士の関係そのものにもあったのだと思います。


「一年間、本当に誰も気づかなかったのか?」という疑問

入れ替わりトリックを知って、私が一番引っかかったのはここでした。

仮面をつけていたとはいえ、

「一年間、同じ館で生活して本当に誰も別人だと気づかなかったのか?」

という疑問です。

声。

話し方。

性格。

食事の好み。

生活習慣。

一緒に暮らしていれば、外見以外にも違いはいくらでも出てきそうです。

そのため、この部分については人によって評価が分かれると思います。

ただ、考えてみると紀一自身がもともと周囲と距離を置いた生活をしていました。

仮面をつけ、人との接触を避け、自分の世界に閉じこもっている。

周囲も紀一の傷や過去に踏み込まないように接していたのでしょう。

つまり、

「毎日会っていたのに気づかなかった」

というより、

「毎日会っていても、その人を本当に見てはいなかった」

とも考えられます。

そう考えると、私はこのトリックが少し怖くなりました。

同じ家の中で一年間、別人が主人として暮らしている。

しかも、それが日常になってしまっている。

殺人そのものとは違う不気味さがあります。


『水車館の殺人』を読み返すと分かる4つの伏線

読み返すと分かる伏線① 現在と過去で「人称」が違う

ここは『水車館の殺人』で特に面白いところです。

現在のパートは「私」という一人称で描かれています。

一方、一年前のパートは三人称です。

初読では、

「現在と過去を分かりやすくするためかな」

程度に考えてしまいます。

ところが真相を知ると、別の理由が見えてきます。

現在「藤沼紀一」として暮らしている人物は、本当は正木慎吾です。

もし三人称の地の文で、

「藤沼紀一は○○した」

と断定してしまえば、読者に嘘をつくことになります。

そこで現在編を「私」という一人称にする。

読者は勝手に、

私=藤沼紀一

だと思い込むわけです。

作者は嘘を書いていません。

読者が自分で間違った答えを作っています。

読み終わってから気づくと、非常によく考えられた構成です。


読み返すと分かる伏線② 「色」の見え方がおかしい

もう一つ面白いのが、色に関する描写です。

現在の「私」が見ている色と、島田たちが認識している色には微妙な違いがあります。

たとえば、現在の「私」には赤い絨毯や緑色のものが灰色に近い色として見えている場面があります。

初読では館内の薄暗さや文章表現の一つとして読み流してしまいそうですが、別の人物の色の認識と比べると、そこには明らかな違いがあります。

しかし、この違和感は正木慎吾の色覚につながっています。

正木は過去の事故によって、画家を続けられなくなるような問題を抱えていました。

つまり、

現在の「私」が見ている世界そのものが、正体を示す伏線だった

ということです。

これは仮面よりもかなり気づきにくいヒントだと思います。

私もこういう「読んだときには普通の文章に見える伏線」は好きです。


読み返すと分かる伏線③ 仮面・手袋・車椅子

もちろん、最も分かりやすい伏線が仮面です。

初読では、

  • 仮面 → 顔の傷を隠すため
  • 手袋 → 手の傷を隠すため
  • 車椅子 → 事故によって歩けないため

と理解します。

それで何の疑問もありません。

ところが真相を知ると、

  • 仮面 → 正木の顔を隠せる
  • 手袋 → 手の違いを隠せる
  • 車椅子 → 身体的な違いをごまかせる

と、意味が完全に変わります。

一つの設定に二つの意味を持たせているのがうまいところです。

特に、作品の象徴ともいえる白い仮面が、単なる雰囲気作りではなくトリックそのものにつながっていたのは納得感がありました。


読み返すと分かる伏線④ 本物の紀一はどこへ消えたのか

もう一つ忘れてはいけないのが、本物の藤沼紀一です。

正木は紀一を襲い、その後紀一になりすまします。

しかし実は、正木自身も本物の紀一の遺体を隠したわけではありません。

襲われた紀一は瀕死の状態で書斎へ入り、そこにある仕掛けを使って地下へ逃げ込んでいました。

書斎には、普通では気づけない秘密の仕掛けがあります。

これも、

「中村青司が設計した館なのだから、普通の館で終わるはずがない」

という館シリーズらしい部分です。

作中で書斎にまつわる違和感が何度か出てきますが、真相を知ってから読み返すと意味が変わります。

正木ですら知らなかった秘密が、館の中にはまだ残されていた。

水車館という建物が最後まで事件に関わっているところも面白いです。


最後に残る「幻影群像」が一番不気味だった

事件の真相が分かり、

犯人も分かった。

トリックも分かった。

一年前の謎も解けた。

普通のミステリーであれば、ここですっきり終わります。

しかし『水車館の殺人』は、最後にもう一つ不気味なものを残します。

それが藤沼一成の遺作「幻影群像」です。

ここで注意したいのは、一年前に盗まれたように見えた「噴水」と「幻影群像」は別の作品だということです。

「幻影群像」には、水車館や黒髪の少女、白い仮面など、後に起きる出来事を予見していたかのようなものが描かれていました。

さらに、薬指を失った左手。

そして灰色に見える血。

正木の運命まで知っていたのではないかと思わせる内容です。

ここまで事件を論理で解決してきたのに、最後だけは論理ではきれいに説明できません。

「藤沼一成には、本当に未来が見えていたのか?」

という疑問が残ります。

私はこの終わり方がかなり印象に残りました。

本格ミステリーなのに、最後の最後で少しだけ幻想的な世界へ引き戻される。

事件は終わったのに、水車館の不気味さだけが残るのです。


『水車館の殺人』を読み終えて感じたこと

『水車館の殺人』を読み終えて一番面白いと思ったのは、「別人が仮面をかぶっていた」という答えそのものではありません。

その答えを読者に気づかせないために、

  • 仮面
  • 手袋
  • 車椅子
  • 一人称と三人称
  • 色の見え方
  • 左手薬指
  • 書斎の仕掛け

と、いくつもの要素が重ねられていたことです。

一つひとつを見ると小さな違和感です。

しかし答えを知ったあとにつなげると、一つの絵になります。

だからこそ、読み終わったあとに序盤へ戻りたくなりました。

一方で、

「一年間、本当に入れ替わりに気づかれないものだろうか」

という疑問は残ります。

私は、その引っかかりまで含めて楽しみました。

すべてが現実的に完璧だから面白いというより、大胆な仕掛けを成立させるために細かな伏線が張られているところを楽しむ作品だと思います。

『十角館の殺人』と同じ衝撃を期待すると少し違うかもしれません。

ただ、

「今度はこうやって騙してきたのか」

という館シリーズならではの面白さは十分にありました。


『水車館の殺人』の次は『迷路館の殺人』

『水車館の殺人』まで読んだのであれば、次は館シリーズ第3作『迷路館の殺人』です。

館シリーズは、それぞれの事件だけを見れば独立しているため、必ずしも順番通りに読まなければ理解できないわけではありません。

それでも私は、できれば順番に読むことをおすすめします。

十角館。

水車館。

そして迷路館。

館が変わるたびに、

「今回は中村青司が何を仕掛けているのだろう」

と疑う楽しみが増えていくからです。

館シリーズを続けて読む方は、次作「綾辻行人『迷路館の殺人』感想・書評」も参考にしてください。

“この館から、あなたは論理だけで脱出できるか”──迷路館の殺人 書評
迷路館の殺人の書評・あらすじ解説。綾辻行人による館シリーズ屈指の問題作を、物語構造やトリック、読後の衝撃まで詳しくレビュー。本格ミステリー好き必読の一冊。

水車館まで楽しめた方は、そのまま館シリーズ第3作『迷路館の殺人』へ進んでみてください。今度は「迷路」の名を持つ館で、新たな仕掛けが待っています。

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まとめ|『水車館の殺人』は真相を知ってからもう一度読みたくなる

『水車館の殺人』は、綾辻行人さんの館シリーズ第2作です。

仮面をつけた主人が暮らす異形の館。

一年前に起きた不可解な事件。

消えた男。

盗まれた絵。

そして一年後、島田潔が訪れたことで、止まっていた事件が再び動き始めます。

『十角館の殺人』ほど一瞬で景色が変わるタイプの衝撃ではありません。

その代わり、

「なぜ現在編だけ一人称なのか」

「なぜ色の描写に違和感があったのか」

「なぜ仮面や手袋が必要だったのか」

と、真相を知ったあとにそれまでの文章を確認したくなる面白さがあります。

そして、すべてが解決したように見えた最後に残される「幻影群像」。

論理で事件を解き明かす本格ミステリーでありながら、最後には説明しきれない不気味さが残ります。

それこそが、私にとって『水車館の殺人』で最も印象に残った部分でした。

館シリーズを順番に読んでいるのであれば、このまま第3作『迷路館の殺人』へ進んでみてください。

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