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東野圭吾『怪笑小説』感想・あらすじ|9編の見どころを紹介【前半ネタバレなし】

東野圭吾『怪笑小説』感想・あらすじ|9編の見どころを紹介【前半ネタバレなし】

東野圭吾さんと聞くと、緻密なトリックや重い人間ドラマを思い浮かべる人も多いと思います。

ところが『怪笑小説』は、かなり雰囲気が違います。

満員電車でたまっていく人々の不満。

芸能人のおっかけに夢中になる老女。

UFOとタヌキを結びつけようとする男。

住宅地で発見された死体を前に、とんでもない行動へ走る住民たち。

設定だけを見ると、かなりバカバカしい。

実際、思わず笑ってしまう話もあります。

ただ、読み終わったあとに、

「これ、笑ってよかったのかな……」

と少し戸惑います。

私が『怪笑小説』を読んで印象に残ったのも、この何ともいえない後味でした。

人間の欲や見栄、執着、思い込みを少し極端にすると、こんなにも滑稽に見える。

でも、完全に他人事とも思えません。

明るいコメディとは少し違う。

タイトルの「怪笑」という言葉がよく似合う短編集です。

この記事では、前半で全9編のあらすじや読みどころをネタバレなしで紹介します。

後半では一部の作品について少し踏み込みますが、各短編の決定的なオチや結末は明かしません。

東野圭吾『怪笑小説』とは?

『怪笑小説』は、東野圭吾さんによるブラックユーモア短編集です。

項目内容
書名怪笑小説
著者東野圭吾
出版社集英社
単行本1995年10月
集英社文庫1998年8月20日
文庫版ページ数288ページ
収録作品全9編
ジャンルブラックユーモア・短編集

収録されているのは、次の9作品です。

  1. 鬱積電車
  2. おっかけバアさん
  3. 一徹おやじ
  4. 逆転同窓会
  5. 超たぬき理論
  6. 無人島大相撲中継
  7. しかばね台分譲住宅
  8. あるジーサンに線香を
  9. 動物家族

すべて独立した短編なので、最初から最後まで一気に読む必要はありません。

気になる作品から読んでも楽しめます。

『怪笑小説』は「気持ちよく笑う本」とは少し違う

タイトルに「笑」とありますが、明るく楽しい話ばかりではありません。

確かに、設定はおかしい。

登場人物の行動もかなり極端です。

「そこまでやるか?」

と思いながら笑える場面もあります。

ただ、その行動の根っこにあるものを見ると、少し印象が変わります。

見栄を張りたい。

人より得をしたい。

自分だけは損をしたくない。

好きなものに夢中になりすぎる。

自分の考えを正しいと思いたい。

一つひとつは、誰にでもありそうな感情です。

だからこそ、単純に登場人物を笑って終われません。

笑えるけれど、どこか後味が悪い。

まずは、この感覚が『怪笑小説』の特徴だと思います。

『怪笑小説』全9編のあらすじ・見どころ【ネタバレなし】

「鬱積電車」|満員電車に乗る人たちの本音

舞台は満員電車です。

同じ車両に乗り合わせた人たちは、表面上は何事もないように過ごしています。

しかし心の中では、周囲への不満や苛立ちがたまっています。

電車に乗っていると、

「もう少し詰めてくれればいいのに」

「こんなところで、それをする?」

と思うことがあります。

普通なら口には出しません。

そんな言えない本音を大きく膨らませた一編です。

日常的な場所から始まるので、9編の中でも入りやすい作品です。

「おっかけバアさん」|好きなものに夢中になることの危うさ

年金暮らしの老女が、芸能人のおっかけに夢中になっていきます。

好きな人を応援する。

コンサートへ行く。

関連商品を買う。

ここまでは珍しいことではありません。

しかし、どこまでいけば「好き」ではなく「執着」になるのでしょうか。

最初は生き生きして見える主人公が、少しずつのめり込んでいく。

笑えるようで、少し怖さもあります。

「一徹おやじ」|子どものためなのか、親の夢なのか

自分が果たせなかった夢を、子どもへ託そうとする父親。

息子を野球選手にするため、熱心に鍛えていきます。

「子どもの将来を思っている」

と言えば聞こえはいいですが、本当に子どものためだけなのでしょうか。

親の期待。

子どもの人生。

かなり大げさに描かれていますが、テーマ自体は意外と身近です。

「逆転同窓会」|先生と元生徒の立場が変わったら

かつて教師だった人たちと、その教え子だった人たち。

年月が流れ、社会人となった元生徒たちと再び顔を合わせます。

学校では先生が教える側。

生徒が教えられる側。

しかし、社会へ出て何十年もたてば、立場は変わります。

タイトルの「逆転」が何を意味するのか。

少し皮肉の効いた一編です。

「超たぬき理論」|UFOの正体はタヌキ?

「タヌキには超能力がある」

さらに、

「UFOの正体もタヌキではないか」

そんな独自の理論を本気で追究する男が登場します。

9編の中でも、かなりバカバカしい設定です。

ところが本人は真剣です。

自分の説を証明しようとする姿を見ていると笑ってしまう一方、

自分が信じたいものに都合のよい材料ばかり集めてしまう

という人間の危うさも感じます。

「無人島大相撲中継」|何もない場所で生まれる娯楽

無人島へ漂着した人々。

そこで思わぬ価値を持ち始めるのが、過去の大相撲の取り組みを詳しく再現できる人物です。

テレビもない。

ラジオもない。

娯楽もない。

そんな場所では、一人の記憶が人を楽しませるものになります。

ところが、人が集まれば欲も生まれます。

くだらないようでいて、人間関係の妙が見えてくる作品です。

「しかばね台分譲住宅」|死体より家の価値が気になる?

住宅地で、突然死体が見つかります。

普通なら警察へ連絡するところです。

しかし住民たちは、

「こんな事件が知られたら、住宅の価値が下がるのでは?」

と考え始めます。

そして話は、とんでもない方向へ進みます。

私が9編の中でも特に強烈だと感じた作品です。

やっていることはかなり不謹慎です。

それでも、

「せっかく買った家の価値を下げたくない」

という気持ちだけなら、まったく理解できないとも言い切れません。

その微妙なところが怖い一編です。

「あるジーサンに線香を」|笑えるタイトルなのに少し切ない

孤独に暮らす老人が、若返りに関する実験へ協力することになります。

タイトルを見ると、かなりふざけた話を想像するかもしれません。

私も最初はそう思いました。

ところが読み進めると、少し印象が変わります。

若さ。

老い。

時間。

過ぎてしまった人生。

ブラックユーモア短編集の中にありながら、私にはしんみりした喪失感が残った一編でした。

9編の中でも少し雰囲気が違います。

「動物家族」|家族が動物に見えたら?

主人公の少年には、周囲の人間が動物のように見えます。

父親。

母親。

兄弟。

友人。

発想だけなら、少し面白そうに感じます。

しかし家族について深く描かれるにつれて、だんだん笑えなくなってきます。

家族という近い関係だからこその嫌な部分も見えてきます。

私には特に後味が強く残った作品でした。

「怪笑小説」の最後に置かれていることにも、妙に納得させられます。

9編すべてに共通するのは「人間のおかしさ」

9作品の題材はかなりバラバラです。

満員電車。

芸能人のおっかけ。

野球。

同窓会。

UFO。

相撲。

住宅。

老い。

家族。

それでも一冊として読むと、共通しているものがあります。

登場人物たちは皆、自分なりにかなり真剣です。

自分の家を守りたい。

子どもに成功してほしい。

好きなものを追い続けたい。

自分の説が正しいと証明したい。

本人は真面目なのに、外から見るとおかしい。

人間は真剣になればなるほど、時に滑稽に見える。

この視点が、9編をつないでいるように感じました。

東野圭吾初心者にもおすすめ?少し好みは分かれそう

読みやすさという意味では、かなり入りやすいです。

全9編の短編集なので、一話ずつ区切って読めます。

ただ、

「東野圭吾のミステリーを初めて読んでみたい」

という人の最初の一冊としては、少し迷います。

『怪笑小説』では、本格的な犯人当てや大掛かりなどんでん返しが中心ではありません。

東野圭吾さんの、

皮肉、ユーモア、人間観察

を楽しむ作品だからです。

重厚な長編ミステリーを想像して読むと、かなり違って感じるでしょう。

一方、

「東野圭吾の違う一面も読んでみたい」

という人には向いています。

一気読みより「今日は一編」くらいがちょうどよかった

短編集なので、どんどん読めそうに見えます。

しかし私は、何編も続けて読むより、少し間を置いた方が読みやすく感じました。

話そのものは難しくありません。

むしろテンポよく読めます。

ただ、どの話にも人間の嫌な部分や妙な執着が混ざっています。

続けて読むと、少しお腹いっぱいになる感覚があります。

そのため、

今日は一編だけ読む

くらいでも十分です。

長編小説をじっくり読む時間がないときにも相性のよい本です。

『怪笑小説』がおすすめな人・合わないかもしれない人

『怪笑小説』は、次のような人に向いています。

  • ブラックユーモアが好きな人
  • 東野圭吾のミステリー以外の作品も読んでみたい人
  • 短編を少しずつ読みたい人
  • 人間の欲や見栄を皮肉った話が好きな人
  • 笑えるのに少し後味の悪い作品が好きな人

一方、

  • 心温まるコメディを読みたい人
  • 本格的な謎解きを期待している人
  • ブラックな展開や不謹慎な笑いが苦手な人

には、あまり合わないかもしれません。

「思い切り笑ってスッキリしたい」というより、

苦笑いしながら人間のおかしさを眺めたいときに読む本

という方が近いと思います。

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『怪笑小説』が合ったら『毒笑小説』もおすすめ

『怪笑小説』の雰囲気が気に入ったなら、『毒笑小説』も候補になります。

『毒笑小説』も、東野圭吾さんが人間の欲や身勝手さをブラックな笑いで描いた短編集です。

『怪笑小説』を読んで、

「東野圭吾にはこんな作品もあるのか」

と面白く感じた人なら、続けて読んでみてもよいでしょう

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ここからは各作品に少し踏み込みます

ここから先は、作品のテーマや途中の展開について少し触れます。

各短編の決定的なオチや結末は明かしません。

まったく予備知識なしで読みたい方は、ここまでで本編へ進んでください。

【軽いネタバレあり】「しかばね台分譲住宅」が怖いのは死体より住民

タイトルからしてかなり不穏です。

住宅地で見つかった死体。

しかし住民たちが強く気にするのは、事件そのものだけではありません。

自分たちの家の価値です。

冷静に考えれば、とんでもない話です。

死体より不動産価格を気にしている。

それでも住宅は、多くの人にとって人生でも特に大きな買い物です。

ローンを組み、家族で暮らす場所を決め、ようやく手に入れた家。

そう考えると、住民たちの身勝手さを完全な他人事として笑うこともできません。

人は自分にとって大切なものを守るためなら、どこまで都合よく考えられるのか。

そこまで考えると、単なる不謹慎なコメディではなくなります。

私には、本書の「怪笑」を分かりやすく表した作品に思えました。

【軽いネタバレあり】「あるジーサンに線香を」は笑いだけで終わらない

孤独な老人が、若返りの実験を受ける。

設定だけなら、かなりコミカルです。

老人が若くなったら何をするのか。

若ささえ取り戻せれば、人生も取り戻せるのか。

読み始めはそんな気軽な話に見えます。

ところが、若い身体を手に入れることと、若かったころの人生を取り戻すことは同じではありません。

時間が戻れば、すべてをやり直せる。

そんな単純な話でもありません。

だからでしょうか。

タイトルはふざけているのに、私には笑いより少し寂しい感覚の方が残りました。

他の短編とは少し違った読後感があります。

【軽いネタバレあり】「動物家族」は家族への見方がだんだん変わっていく

主人公には、周囲の人が動物に見えます。

最初は、

「この人はこの動物なのか」

と、その組み合わせ自体を楽しめます。

しかし、家族の事情が見えてくるにつれて、笑ってばかりはいられなくなります。

家族は、とても近い存在です。

それでも、お互いのことをすべて理解しているわけではありません。

外では見せない一面もあります。

本人にしか分からない不満もあります。

主人公の目に人間が動物として見えるという設定は、奇抜なだけではなく、

主人公から見た家族の姿を極端な形で表している

ようにも感じます。

私にとって、気持ちのよい読後感の作品ではありませんでした。

それでも、この短編集の最後に置かれていることには納得できます。

笑ったあとに少し嫌な気分が残るのはなぜか

前半では、『怪笑小説』には「笑えるのに後味が悪い」作品が多いと書きました。

後半まで読んで考えると、その理由はもう少しはっきりします。

登場人物たちの行動はかなり極端です。

だから笑えます。

「自分ならそこまでしない」

と思えるからです。

しかし、その行動の根っこには、

見栄。

欲。

嫉妬。

執着。

思い込み。

自分だけは損をしたくないという気持ち。

そんな身近な感情があります。

程度の差はあっても、自分にはまったくないと言い切れるものばかりではありません。

そこに気づくと、笑っている側も完全に安全ではなくなります。

登場人物を笑っていたはずなのに、いつの間にか人間そのものを笑っている。そして自分もその中にいる。

この居心地の悪さが、『怪笑小説』のおもしろさだと思います。

まとめ|『怪笑小説』は「笑っていいのか迷う」9編の短編集

『怪笑小説』は、東野圭吾さんによる全9編のブラックユーモア短編集です。

満員電車。

芸能人のおっかけ。

親子。

同窓会。

UFOとタヌキ。

無人島と相撲。

分譲住宅。

若返り。

家族。

題材だけを見ると、かなりバラバラです。

それでも最後まで読むと、

人間は真剣になればなるほど、ときに滑稽に見える

という一本の線が見えてきます。

私が特に印象に残ったのは、「しかばね台分譲住宅」と「あるジーサンに線香を」です。

前者は、笑えるのに人間の身勝手さが怖い。

後者は、ふざけたタイトルなのに少し切ない。

そして最後の「動物家族」まで読むと、単純に「面白い短編集だった」だけでは終われません。

笑ったはずなのに、少し嫌なものが残る。

でも、だからこそ印象に残る。

その何ともいえない後味こそ、『怪笑小説』というタイトルに合っている

と思います。

重厚なミステリーとは違う東野圭吾さんの一面を知りたい人には、読んでみてほしい一冊です。

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