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今村翔吾『未だ本能寺にあり』感想・あらすじ|8人の証言で追う信長の謎

今村翔吾『未だ本能寺にあり』感想・あらすじ|8人の証言で追う信長の謎

天正10年6月2日、本能寺の変。

明智光秀の軍勢に襲われ、織田信長は最期を迎えた。

日本史でも特に有名な出来事です。

しかし、今も残る大きな謎があります。

信長の遺骸は、なぜ見つからなかったのか。

今村翔吾さんの『未だ本能寺にあり』は、この謎を追う歴史ミステリーです。

主人公は、羽柴秀吉の家臣・駒井八右衛門。

一度見聞きしたことを忘れない記憶力を持つ八右衛門は、秀吉から密命を受けます。

「上様を探せ――」

本能寺の変に関わった人々の証言を集めながら、あの日に何が起きたのかを一つずつ組み立てていきます。

本能寺ものと聞くと、

「明智光秀はなぜ謀反を起こしたのか」

を描く作品を想像するかもしれません。

本作が追うのは、そこではありません。

「信長はどこへ消えたのか」

という、もう一つの本能寺の謎です。

この記事では、『未だ本能寺にあり』のあらすじ、面白いところ、気になる点、歴史に詳しくなくても読めるのかを紹介します。

信長の行方や物語の核心、結末には触れません。

作品データ

項目内容
書名未だ本能寺にあり
著者今村翔吾
出版社幻冬舎
発売日2026年9月29日
ページ数572ページ
ISBN978-4-344-04646-7
ジャンル歴史小説・歴史ミステリー

『未だ本能寺にあり』は、今村翔吾さんの作家生活10周年記念作品です。

題材は誰もが知る本能寺の変。

そこへ「信長の遺骸が見つかっていない」という史実上の空白を組み合わせ、ミステリーとして物語を構築しています。

あらすじ【ネタバレなし】

明智光秀による本能寺襲撃。

天下統一を目前にしていた織田信長は、その姿を消します。

その後、羽柴秀吉は中国地方から引き返し、山崎の戦いで明智光秀を破りました。

ところが、一つ問題が残っていました。

信長の遺骸が見つからない。

秀吉にとって、これは単なる主君の死の確認だけではありません。

もし別の有力者が先に信長の遺骸を発見し、盛大に弔えば、織田家の後継をめぐる争いで大きな意味を持ちます。

さらに、万が一信長が生きていたとすれば、秀吉が描き始めた今後の構想そのものが崩れかねません。

そこで秀吉は、家臣の駒井八右衛門に命じます。

「上様を探せ」

八右衛門には、一度見聞きしたことを忘れないという特別な記憶力がありました。

彼はその力を使い、本能寺の変に関わった人々を訪ねます。

羽柴秀吉。

信長を刺した明智方の兵。

本能寺にいた使用人。

阿弥陀寺の僧。

織田方、明智方、そして表には出てこなかった目撃者。

それぞれが語る「あの日」の記憶を集めるうちに、本能寺で起きた出来事が少しずつ形になっていきます。

結論|この作品は面白い?

結論からいうと、

歴史小説と謎解きの両方が好きな人には、かなり相性のよい作品です。

本作は、本能寺の変を最初から最後まで時系列で描くだけの歴史小説ではありません。

主人公の八右衛門が、

人に会う。

証言を聞く。

覚えておく。

別の証言と比べる。

矛盾や違和感を探す。

という形で進みます。

そのため、読み味はかなりミステリーに近くなっています。

しかも読者は、

「本能寺の変で信長が倒れた」

という大きな歴史そのものは知っています。

それでも、

「では、遺骸はどうなったのか」

という答えは分かりません。

結末を知っている歴史事件なのに、先が気になる。

ここが本作の強みです。

面白さは3つある

8人の証言がつながっていく

本作最大の特徴が、8人の証言です。

本能寺の変を、一人の英雄の視点だけから描きません。

立場の異なる人々が、

自分は何を見たのか。

誰と出会ったのか。

あの日、何が起きたのか。

を語ります。

当然、全員が同じ場所から本能寺を見ていたわけではありません。

知っていることも違います。

最初は関係がないように思える証言もあります。

しかし、新しい話を聞くたびに、

「あの話とここがつながるのでは?」

という部分が出てきます。

一つでは意味を持たなかった情報が、別の証言によって意味を持つ。

さらに次の証言が加わることで、それまでの見方が変わる。

バラバラの証言を一枚の絵へ組み立てていく感覚

が、本作の大きな面白さです。

八右衛門の記憶力が謎解きに活きる

駒井八右衛門は、一度見聞きしたことを忘れません。

歴史小説の主人公としては少し変わった能力です。

しかし、この設定が証言型のミステリーとうまくかみ合っています。

以前、誰が何を言ったのか。

どんな物を見たのか。

細かな部分まで八右衛門の中に残っています。

そのため、離れた場所で聞いた証言同士を比較できます。

ただし、覚えているだけで事件が解けるわけではありません。

大切なのは、

記憶した情報をどう結びつけるか

です。

話を聞けば聞くほど情報量は増えていきます。

その中から何が重要なのかを見極め、真相へ近づいていく。

八右衛門は、歴史小説の主人公であると同時に、本作の探偵役でもあります。

史実の「空白」をミステリーにしている

本能寺の変を扱った作品は数多くあります。

そして、よく取り上げられるのが、

「なぜ明智光秀は信長を裏切ったのか」

という謎です。

『未だ本能寺にあり』は、そこから少し横へずれます。

注目するのは、

「なぜ信長の遺骸は見つからなかったのか」

です。

信長の最期について、すべてが記録に残っているわけではありません。

だからこそ、その空白には物語を組み立てる余地があります。

史実として分かっていること。

記録に残っていないこと。

そこへ小説としての想像力を加える。

歴史小説だからこそ成立するミステリーです。

なぜ秀吉は信長を探すのか

本作では、秀吉が信長を探す理由も重要です。

単純に、

「主君の遺骸を見つけて弔いたい」

だけではありません。

山崎の戦いで明智光秀を破った秀吉は、織田家の中で存在感を急速に高めています。

しかし、信長の遺骸が見つかっていません。

もし別の人物が先に見つけて弔えば、その人物が、

「信長の後を継ぐ者」

として存在感を高める可能性があります。

さらに、信長が本当に生きていれば状況はすべて変わります。

つまり、信長の行方は、

秀吉自身の今後にも関わる政治的な問題

です。

この事情があることで、八右衛門の調査にも時間的な緊張感が生まれます。

単なる歴史上の謎解きではなく、当時の権力争いとつながっているのも本作の読みどころです。

証言から信長が見えてくる

本作では、信長を探すことが物語の中心です。

ところが、本人がいないからこそ、周囲の人々が見た信長が浮かび上がってきます。

ある人にとっては主君。

ある人にとっては恐ろしい存在。

ある人にとっては人生を変えた人物。

立場によって見え方は異なります。

そのため、

「信長はこういう人物だった」

と一方向から決めつけるのではなく、複数の証言から人物像を考えることになります。

これは、信長の行方を追うミステリーと同時に、

周囲の人々を通して織田信長という人物を描く物語

としても読める部分です。

ただし、どんな信長像にたどり着くのかは、実際に読んで確かめた方がよいでしょう。

歴史に詳しくなくても読める?

本能寺の変を詳しく知らなくても読めます。

最低限、

織田信長が明智光秀に襲われた。

その後、羽柴秀吉が明智光秀を倒した。

という流れを知っていれば、物語へ入りやすいでしょう。

細かな年号や合戦名を暗記している必要はありません。

本作の目的は明確です。

消えた信長を探す。

この一本の謎を八右衛門と一緒に追っていけばよいため、歴史小説を普段あまり読まない人でも目的を見失いにくくなっています。

実際、出版社が紹介している書店員の感想にも、歴史に詳しくなくても物語として楽しめたという声があります。

一方で、戦国時代を題材にしている以上、登場人物は多めです。

最初から全員の立場を完璧に覚えようとするより、

「今、八右衛門は誰から何を聞いているのか」

を追う方が読みやすいでしょう。

気になるところ

572ページある

本作は572ページの大作です。

気軽に一晩で読み終えるような分量ではありません。

特に序盤から中盤では、本能寺の変そのものだけではなく、秀吉や関係者たちの背景も描かれます。

すぐに答えだけ知りたい人には長く感じる可能性があります。

一方、

証言を一つずつ集める。

人物の過去を知る。

最後に全体をつなげる。

という過程を楽しめる人には、この長さが読み応えになります。

人物名は多め

本能寺の変という大事件を扱うため、当然ながら多くの歴史人物が登場します。

織田方。

明智方。

羽柴方。

僧侶や使用人。

歴史小説に慣れていないと、途中で人物関係を確認したくなるかもしれません。

ただし、すべてを記憶しながら読む必要はありません。

八右衛門の調査を軸に追えば、物語の中心は見失いにくくなっています。

小説としての「答え」である

本作を読むと、

「本当にこうだったのでは?」

と思う人もいるでしょう。

それほど一つの答えとして組み立てられていること自体が、本作の魅力です。

ただし、あくまで歴史小説です。

描かれている真相が、史実として証明されたわけではありません。

史実と創作の境目を楽しむ

という読み方が合っています。

こんな人におすすめ

『未だ本能寺にあり』は、特に次のような人に向いています。

  • 本能寺の変が好き
  • 織田信長に興味がある
  • 歴史ミステリーを読みたい
  • 証言を集めて真相を追う作品が好き
  • 伏線がつながる物語が好き
  • 今村翔吾作品が好き
  • 長編をじっくり読みたい
  • 史実の空白を想像する小説が好き

反対に、

短い作品を読みたい。

登場人物が少ない小説が好き。

歴史上の人物名が多い作品は苦手。

結論まで短時間で進むミステリーが好き。

という人には、少し重く感じるかもしれません。

信長を別の角度から読むなら

『未だ本能寺にあり』は、

本能寺の変と信長の行方

を描いた作品です。

一方、信長がどんな人物で、なぜ多くの人間を動かして天下へ近づいていったのかを別の角度から読みたい場合は、垣根涼介さんの『信長の原理』も候補になります。

『信長の原理』では、人間や組織の行動原理を通して信長が描かれています。

同じ人物でも、

最期から見る信長。

組織を率いる姿から見る信長。

では印象が変わります。

本能寺以前の信長を、人間や組織を動かす原理という別の視点から読みたい方は、『信長の原理』の感想も参考にしてください。

『信長の原理』感想|2・6・2の法則で描く織田信長【あらすじ・後半ネタバレあり】
垣根涼介『信長の原理』のあらすじと感想を紹介。2・6・2の法則を軸に描かれる織田信長と家臣たちの心理、作品の面白さを解説します。前半はネタバレなし、後半は核心部分を伏せながら物語を考察します。

感想まとめ

今村翔吾さんの『未だ本能寺にあり』は、

「信長の遺骸はなぜ見つからなかったのか」という謎を追う歴史ミステリー

です。

主人公・駒井八右衛門は、羽柴秀吉から、

「上様を探せ」

という密命を受けます。

一度見聞きしたことを忘れない記憶力を使い、本能寺の変に関わった人々の証言を集めていきます。

本作で面白いのは、

8人の証言が少しずつつながっていくこと。

八右衛門の記憶力が謎解きに活かされること。

そして、史実に残された空白そのものをミステリーへ変えていることです。

本能寺の変は、日本史でも特に有名な事件です。

それでも、

「信長の遺骸はどこへ消えたのか」

という問いには、今も確定した答えがありません。

だからこそ、400年以上前の出来事なのにミステリーとして成立します。

歴史を詳しく知っている人なら、史実とのつながりを楽しめる。

詳しくない人なら、八右衛門と一緒に謎を追うことができる。

どちらの読み方もできる作品です。

572ページあるため、決して軽い一冊ではありません。

しかし、

歴史上の大きな謎。

複数の証言。

少しずつつながる情報。

そして、その向こうに見えてくる織田信長。

こうした要素に惹かれる人なら、じっくり読む価値のある歴史ミステリーです。

「信長の遺骸はどこへ消えたのか」という歴史の空白を、八右衛門と一緒に追ってみたい方におすすめです。

www.amazon.co.jp

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