
桃太郎。
浦島太郎。
一寸法師。
花咲か爺さん。
鶴の恩返し。
子どもの頃から知っている日本昔ばなしですが、もしその世界で殺人事件が起きたらどうなるのでしょうか。
青柳碧人さんの『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、日本昔ばなしと本格ミステリーを組み合わせた短編集です。
一見すると、
「昔ばなしを使ったパロディ小説かな?」
と思うかもしれません。
しかし実際には、
アリバイ。
ダイイングメッセージ。
倒叙ミステリー。
密室。
クローズド・サークル。
と、5編それぞれに異なるミステリーの仕掛けが用意されています。
この本の面白さは、昔ばなしの登場人物を借りただけではありません。
昔ばなしに元からある設定そのものを、事件やトリックに利用していること
にあります。
この記事では、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のあらすじ、収録5編の特徴、面白かったところや気になるところを紹介します。
前半はネタバレなしです。
後半では5編それぞれの感想にも少し触れますが、犯人名・トリックの核心・結末は伏せています。
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | むかしむかしあるところに、死体がありました。 |
| 著者 | 青柳碧人 |
| 出版社 | 双葉社 |
| 単行本刊行 | 2019年4月 |
| ジャンル | 本格ミステリー・短編集 |
| 収録作品 | 全5編 |
| 実績 | 2020年本屋大賞ノミネート |
本作は、日本昔ばなしを題材にした「昔ばなし×ミステリ」シリーズの第1作です。
双葉社公式でも、日本昔ばなしを密室・アリバイ・ダイイングメッセージなどの本格ミステリーとして読み解く作品として紹介されています。
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』あらすじ【ネタバレなし】
舞台となるのは、誰もが一度は聞いたことのある昔ばなしの世界です。
ただし、私たちが知っている物語とは少し違います。
一寸法師の世界ではアリバイが問題になり、
花咲か爺さんの世界ではダイイングメッセージが残され、
浦島太郎が訪れた龍宮城では殺人事件が起こります。
そして桃太郎が鬼を退治したあとの鬼ヶ島でも、新たな事件が待っています。
昔ばなしには、
「なぜ、こんなことが起きたのだろう?」
「別の立場から見たら、どう見えるのだろう?」
と改めて考えると、不思議な部分があります。
本作では、そんな昔ばなし独特の設定を利用して、
その世界でなければ成立しないミステリー
を作っています。
元の昔ばなしを知っているからこそ、
「そこを謎に使うのか」
と思わされる仕掛けが楽しめます。
結論|『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は面白い?
結論からいうと、
昔ばなしと本格ミステリーを組み合わせた発想を楽しめる人には、かなり相性のよい作品です。
特に面白いのは、
「桃太郎や浦島太郎の登場人物を使って殺人事件を書いた」
だけでは終わっていないところです。
一寸法師なら一寸法師。
浦島太郎なら浦島太郎。
桃太郎なら桃太郎。
それぞれの昔ばなしにしかない設定が、事件や謎解きに関わります。
しかも5編すべて、ミステリーの形式が違います。
短編集なのでテンポもよく、
「本格ミステリーには興味があるけれど、長編は少し重い」
という人にも入りやすいでしょう。
一方で、鬼や龍宮城などが普通に存在する世界です。
現実世界だけで成立するミステリーを好む人には、少し好みが分かれると思います。
収録されている5編
本作には、次の5作品が収録されています。
| 収録作品 | 元になった昔ばなし | ミステリーの特徴 |
|---|---|---|
| 一寸法師の不在証明 | 一寸法師 | アリバイ |
| 花咲か死者伝言 | 花咲か爺さん | ダイイングメッセージ |
| つるの倒叙がえし | 鶴の恩返し | 倒叙ミステリー |
| 密室龍宮城 | 浦島太郎 | 密室 |
| 絶海の鬼ヶ島 | 桃太郎 | クローズド・サークル |
題材になっている昔ばなしは、よく知られているものばかりです。
そのため、登場人物や世界観を一から覚える必要がありません。
これは、普段あまりミステリーを読まない人にとっても大きな読みやすさにつながっています。
また、アリバイから密室、クローズド・サークルまで違うタイプの謎が用意されているため、一冊の中でも変化を楽しめます。
良かったところ
昔ばなしの設定そのものを謎解きに使っている
この作品の一番の魅力はここです。
昔ばなしの登場人物だけを借りた作品ではありません。
元の話に登場する、
人物。
場所。
道具。
不思議な出来事。
などが事件へ組み込まれています。
そのため原作を知っている読者ほど、
「なるほど、そこを使うのか」
と楽しめます。
昔ばなしというファンタジーと、本格ミステリーの論理的な謎解き。
一見すると相性が悪そうな二つを組み合わせているところが、この作品ならではです。
5編でミステリーの形式が変わる
短編集ですが、同じパターンが5回続くわけではありません。
アリバイ。
ダイイングメッセージ。
倒叙。
密室。
クローズド・サークル。
作品ごとに楽しみ方が変わります。
そのため、
「次は昔ばなしをどんな形でミステリーにするのだろう?」
と読み進められます。
短編なので読みやすい
長編ミステリーでは、
登場人物が多い。
人間関係を覚える必要がある。
真相まで時間がかかる。
と感じる人もいるでしょう。
本作は5編の短編集なので、区切りながら読みやすいです。
しかも、元になった昔ばなしを知っているため、世界へ入りやすくなっています。
普段あまり小説を読まない人にも手に取りやすい作品です。
昔ばなしを違う立場から見られる
子どもの頃は、
桃太郎は正義。
鬼は悪者。
と深く考えずに聞いていた人も多いと思います。
しかし、大人になって別の立場から見ると、
「本当にそうなのだろうか?」
という疑問も出てきます。
本作では、そうした視点の変化も楽しめます。
単に事件を解くだけではなく、知っていた昔ばなしが少し違って見えてくるところも魅力です。
気になったところ
ファンタジー設定は好みが分かれる
本格ミステリーではありますが、舞台は昔ばなしです。
鬼。
喋る動物。
不思議な道具。
龍宮城。
こうした存在を前提として事件が進みます。
そのため、
「現実に起こり得るトリックでなければ嫌だ」
という人には合わない可能性があります。
一方で、
その世界のルールを前提に論理的に謎を解く作品
が好きなら楽しみやすいでしょう。
5編すべて同じくらい好みに合うとは限らない
短編集なので、作品によって雰囲気や謎の種類が異なります。
密室が好きな人。
暗号やメッセージが好きな人。
クローズド・サークルが好きな人。
好みによって印象に残る話も変わります。
ただし、一編が合わなくても、次はまったく違うタイプの事件になります。
これは短編集ならではの良さでもあります。
こんな人におすすめ
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、特に次のような人におすすめです。
- 本格ミステリーを気軽に読んでみたい
- 短編ミステリーが好き
- 少し変わった設定の小説を読みたい
- 桃太郎や浦島太郎などの昔ばなしが好き
- トリックを考えながら読むのが好き
- 長いミステリーは少し苦手
- 青柳碧人さんの作品を初めて読む
反対に、
現実味のある社会派ミステリー。
一人の主人公を長く追う物語。
重厚な人間ドラマ。
を求めている場合は、少し方向が違います。
昔ばなしをどのようにミステリーへ変えたのかを楽しむ作品
と考えると分かりやすいでしょう。
ここから5編の感想【軽いネタバレあり】
ここからは、各作品の特徴についてもう少し触れます。
犯人名・トリックの核心・結末には触れません。
「一寸法師の不在証明」|シリーズの特徴が分かりやすい
題材は「一寸法師」です。
一寸法師といえば、
小さな体。
鬼。
打ち出の小槌。
などが有名です。
そうした昔ばなし特有の設定が、アリバイを考えるための条件になります。
最初の一編なので、
「昔ばなし×本格ミステリーとはこういうことなのか」
と作品の方向性をつかみやすい話です。
「花咲か死者伝言」|ダイイングメッセージをどう読むか
題材は「花咲か爺さん」。
中心になるのはダイイングメッセージです。
死の直前に残された情報を、
「どう解釈するのか」
がポイントになります。
昔ばなしで知っている要素が推理に絡んでくるため、本作らしさを感じやすい一編です。
「つるの倒叙がえし」|読み方を変えてくる一編
題材は「鶴の恩返し」です。
タイトルに「倒叙」とあるように、ほかの作品とは少し違った角度から事件を見ていきます。
「犯人は誰なのか」だけを追いかける作品ではありません。
5編の中でよい変化になっています。
「見てはいけない」という鶴の恩返しならではの設定が、どう使われるのかにも注目です。
「密室龍宮城」|龍宮城で起きる密室事件
題材は「浦島太郎」。
舞台は龍宮城です。
幻想的な場所なのに、そこで扱われるのは本格ミステリーの定番である「密室」。
この組み合わせだけでも、本作の特徴がよく表れています。
ファンタジーだから何でもありにするのではなく、その世界の条件を利用して謎を組み立てていくところが見どころです。
「絶海の鬼ヶ島」|桃太郎を別の立場から見る
最後は「桃太郎」です。
舞台は鬼ヶ島。
桃太郎たちと鬼の戦いが終わったあと、さらに事件が始まります。
ここで面白いのは、
桃太郎の物語を鬼側から見ること
です。
子どもの頃に聞いた昔ばなしでは、
桃太郎=正義。
鬼=悪。
という分かりやすい構図でした。
しかし、立場が変わると同じ出来事の見え方も変わります。
鬼ヶ島という閉ざされた場所を利用したクローズド・サークルと、昔ばなしへの別の視点。
その両方を楽しめる一編です。
5編の中でどれがおすすめ?
好みによって変わりますが、選ぶ目安を挙げるなら、
アリバイものが好き
→「一寸法師の不在証明」
ダイイングメッセージを考えたい
→「花咲か死者伝言」
少し変わった構成を読みたい
→「つるの倒叙がえし」
密室ものが好き
→「密室龍宮城」
クローズド・サークルが好き
→「絶海の鬼ヶ島」
となります。
どれか一つだけを目的に読むというより、
5種類のミステリーを一冊で楽しめる
ところが本作の魅力です。
「昔ばなし×ミステリ」シリーズは全3作
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』はシリーズ第1作です。
その後、
- 『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
- 『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』
- 『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』
と続き、第3作が最終巻となっています。
第2作では、
かぐや姫。
おむすびころりん。
わらしべ長者。
猿蟹合戦。
ぶんぶく茶釜。
が題材になります。
第1作とは違う昔ばなしが使われ、5編を通したつながりも楽しめる作品です。
本作を読んで、
「ほかの昔ばなしでも、この組み合わせを読んでみたい」
と思った人は、そのまま第2作へ進みやすいでしょう。
第1作の「昔ばなし×本格ミステリー」が気に入った方は、続編『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』もおすすめです。かぐや姫やおむすびころりんなど、新しい5つの昔ばなしがミステリーになります。

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』感想まとめ
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、
誰もが知っている日本昔ばなしを、本格ミステリーへ変えた短編集
です。
収録されているのは、
一寸法師。
花咲か爺さん。
鶴の恩返し。
浦島太郎。
桃太郎。
の5つ。
それぞれに、
アリバイ。
ダイイングメッセージ。
倒叙。
密室。
クローズド・サークル。
と違った仕掛けがあります。
この作品の魅力は、昔ばなしを舞台として借りただけではありません。
昔ばなしに元からある設定を、謎を成立させるために使っていること
です。
そのため、元の物語を知っているほど、
「そこを利用するのか」
という面白さがあります。
また、短編なので長編ミステリーより気軽に読みやすく、本格ミステリー初心者にも入りやすい作品です。
一方で、鬼や龍宮城などが存在する昔ばなしの世界なので、現実性を最優先する人には好みが分かれるでしょう。
昔ばなしが好き。
短編ミステリーが好き。
少し変わった謎解きを読んでみたい。
そんな人におすすめしたい一冊です。
昔ばなしの世界を使った、少し変わった本格ミステリーを読んでみたい方におすすめです。


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